マルチルームDVR

アメリカではDVRは消費者が家電店で購入する物ではなく,デジタルケーブルTV等の多チャンネルサービスのオプションとして受けるのが通常になっている。視聴者は多チャンネルサービス事業者にDVRサービスを申し込むとSTBがHDD内蔵の物にリプレースされ,DVRサービスとして6ドルから10数ドル程度の月額料金が加わる。TiVoにしてもその64%の加入者はDirecTVが提供するSTBに内蔵されたタイプの利用者である。

DVRはスタンドアロンとして成功しなかったが,多チャンネルサービスのオプションとして提供されることで,DVRの敷居は低くなり,急成長をしている。DVRは2005年末でアメリカのTV視聴の世帯の10%に普及し,2006年末には20%に近づくと予想されている。
DVRの普及により,新たな需要が登場している。それは1つのレコーダーに録画した番組をどの部屋のテレビからでも視聴する事が可能になるマルチルーム(あるいはホールハウス)DVRである。マルチルームDVRには幾つかの種類がある。最もシンプルなのはEchoStarが提供している,ViP 622(HD対応),あるいはDVR 625(SD)である。

これら製品は基本的にはダブルチューナのDVRであり,1つのDVRから2台のテレビへの出力を持っている。2台目のテレビの接続は同軸ケーブルで,UHFチャンネルが使われている。リモコンもUHF帯域を使った物で,別の部屋からDVRの操作が出来る。簡単なマルチルーム・ソルーションであるが,2つ以上のテレビをつなぐことは不可能であり,また,2つ目のテレビへの画質は落ちる。

DigeoのMoxi Media CenterもダブルチューナのDVRであり,2つのテレビを同時にサポートする事が出来る。Moxiから2台目のTVへの出力は同軸ケーブル上のIP伝送で,画質の劣化は無く,また,ホームネットワークにつなぎ,PC上の音楽ファイル,画像の再生を行うことも出来る。しかし,2台目のテレビには専用のMoxi Mateと呼ばれる$79の端末が必要になる。MoxiはCharter Communications等のケーブルTV事業者が採用している。

より多くのテレビをサポート出来る製品としてはScientific AtlantaのExplorer 8300HD MRがある。同社のソルーションは2台目以降のテレビには通常のSTBを使い,マルチルームDVRとSTB間の伝送にはデジタル放送(QAM)を採用している。チューナ機能はそれぞれのSTBが提供するので,DVR自体はダブルチューナは1台目のテレビと裏番組録画専用であり,最大で4台のテレビがサポートされる。しかし,伝送方式はQAMであるため,ホームネットワークにつなぎ,音楽等をシェアする事は出来ない。SAのマルチルームDVRはTime Warnerが採用している。

現在,EchoStarが積極的にマルチルームDVRを提供しているが,ケーブル事業者は積極的では無い。CharterもTime WarnerもマルチルームDVRをサポートしている地域は限られおり,また,大きく宣伝はしていない。Comcastは次世代STBとしてMoCA機能を持つDVRをPanasonicから購入をする契約をしているが,まだ提供は始まっていない。ケーブルTV事業者が積極的になっていない理由はまだ需要が一部のハイエンド世帯であり,設置とサポートが複雑化するからである。EchoStarのアナログ方式以外では配線が複雑化する。配線自体は同軸ケーブルであるが,伝送が双方向になるため,スプリッターの交換が必要になり,また,高周波数になるので,ケーブルも交換する必要性もある。伝送がIPで,ホームネットワークと接続する場合,サービスを導入するエンジニアに新たにIPネットワークの技術を教える必要が生まれる。また,DVR自体が比較的に新しい技術であり,低サポートの製品にはなっていない時点で,1つのDVRを複数の部屋のテレビから操作し,番組を複数のテレビに送り,さらにはホームネットワークとつなぐことはサポート上の悪夢になりかねない。

しかし,ケーブルTV,DBSから視聴者を奪う必要のある電話事業者はハイエンドのマルチルームDVRを積極的に提供し始めている。Verizonは9月からMotorolaのQIP6416を使ったマルチルームDVRサービスの提供を始めた。Motorolaのマルチルームの方法はScientific Atlanta同様に2台目のテレビにはSTB(QIP6200,あるいはQIP2500)を接続するが,伝送は同軸ケーブル上のIP(MoCA)で行われる。放送はそれぞれのSTBにQAMで伝送されるが,DVRに録画された番組はIPで他のSTBに伝送される。Verizonの通常のDVRサービスは13ドルであり,マルチルームではそれが20ドルに値上がる。さらに,2台目以降のSTBの料金として,1台あたり4ドルが加わるので,3台のテレビでのマルチルーム化の月額料金は28ドルになる。

AT&TはそのIPTVサービスのU-Verseで加入者には基本料金で,DVR 1台を含め,最大4台までのSTBを提供している。これらもMotorola製で,マルチルーム対応である。マルチルームサービスはまだ提供されていないが,AT&Tは数ヶ月以内にサービスを開始すると発表している。
マルチルームDVRはまだハイエンドのオプションであるが,DVRがさらに普及する事で,徐々に主要なサービスになっていくであろう。Park AssociatesはマルチルームDVRは2010年にはテレビ視聴世帯の16%に普及するとの予測を発表している。

SprintとMSOのジョイントベンチャー

2005年11月にSprintとMSO4社(Comcast,Time Warner Cable,Cox,Advance/Newhouse)はSprintが10億ドル,MSO4社合計で10億ドルを投資したジョイントベンチャーを設立した。SprintはTime Warner Cable等の電話サービスのバックボーンを提供しており,また,Comcast,Time Warner Cable等はSprintの携帯電話サービスをMVNOとして提供する契約をしていた。このJVは単なる携帯電話サービスの再販ではなく,両者のサービスを統合したサービスを開発するのが目的である。JV設立時点では,2006年中期にはサービスが開始すると発表していたが,その後2006年後半に修正された。

Sprintの携帯電話とMSOの固定電話のボイスメールの統合,携帯電話とケーブルモデムの電子メールの統合,TV,PC,携帯電話への共通したEPGの提供,携帯電話からのDVRの録画予約,携帯電話へのビデオコンテンツの提供等がサービスとして発表されている。Comcastはオレゴン州ポートランド,Time Warnerはテキサス州オースチンとノースカロライナ州のラリーでこのサービスを年内には開始すると言っているが,サービスの開発の開発は遅れており,年内の開始は危なくなっている。

開発が遅れている問題の1つはこのJVはバーチャル組織であり,メンバーは米国の各地に点在していた事がある。9月にSprintはこのJVに関わるSprintとMSOのスタッフを全員,そのカンザス州オバーランド・パークの本社とバージニア州レストンの研究所に集め,組織化を高めた。また,JVの社長であるJohn Garciaの権限を増し,このJVだけでなく,MSOの電話サービスに対するバックボーンの提供の事業も彼の範囲下とし,MSOとのビジネスにおける中心人物にした。

SprintとMSOはそのJVは順調に進んでいると言うが,それを疑う声も一部アナリストから出ている。Sprintは1994年にもMSOとのJVを行っている。1994年にSprint,Comcast,CoxはMSOがSprintの固定電話サービスと携帯電話サービスを再販する目的のSprint Spectrum LPを設立したが,MSOがSprintの携帯電話網構築へのより多くの投資を断った事で,1998年にJVは解散になった。一部アナリストは今回も同じような結果になる可能性があると言っている。8月のAWS帯域の競売で5社はSpectrumCoとして137ライセンスを23.8億ドルで落札したが,その内のSprintが支払うシェアは5%と少ない事から,MSOはこのJVが駄目になる事を予期し,独自で携帯電話サービスの為の帯域に投資したのでは無いかと勘ぐる意見も聞かれる。

デジタル移行の課題

2009年2月17日のアナログ地上波放送の終了に向け,多チャンネルサービスに加入していない約2000万の世帯がデジタル・アナログコンバーターを購入する事を支援する目的で15億ドルの予算が計上されている。この予算を使い,40ドルのクーポンが配られるのだが,それをいかにフェアに配給するかが大きな議論になって来た。このクーポンの配給を担当しているNational Telecommunications and Information Administration(NTIA)は2008年1月1日からクーポンの提供を始め,1世帯に対して最大2つのクーポンの利用を認め,プログラムを2009年3月31日に完了させることを提案しているが,新たな課題が登場している。この問題は販売価格が約50ドルになると想定されているコンバーターの技術要求である。NTIAはA/74と呼ばれるガイドラインを採用する事を提案した。これに対して通常は仲が悪い,放送業界代表のNational Association of Broadcasters(NAB),Maximum Service Television,と家電ベンダー代表のConsumer Electronic Association(CEA)が協力し,反対を訴えている。A/74は正式な規格では無く,さらに2年前の物である。放送事業者はこのコンバーターが必要になる世帯は低収入層であり,受信環境は悪いと思われ,最新のレシーバー技術を使ったコンバーターで無ければ役に立たないと言う。コンバーターが購入されても,デジタル放送が受信出来なくては放送業界は困る。CEAは別の事を心配している。適当な規格無しにコンバーターの販売が可能になった場合,劣る技術を使った製品を安く提供し,儲ける事業者が出てくる事を避けるために,実現可能な高いレベルを規格として採用する事を求めている。このコンバーターの本格的な出荷を2008年中旬とした場合,開発サイクルを考慮すると2007年の初めにはコンバーターの規格が出来ている必要がある。

放送帯域の空き容量の利用

FCCはデジタル放送への移行後の放送帯域の空き容量の利用方法を本格的に検討を始めた。放送局間のお互いの干渉を避けるためにそれぞれに地域でチャンネルは連続して使われていない。この空き容量はロサンジェルスの様な大都市で,全テレビ放送帯域の3分の1,田舎の地域では4分の3に値する。アナログ放送に比べて,デジタル放送では干渉の問題が少ないことから,PC事業者等はこの帯域を家庭内の無線ネットワーク,あるいは地域ブロードバンドネットワークに利用する事を求めている。FCCは基本的にこの空き容量を利用することが出来る方向で検討を続ける姿勢を明らかにしたが,2つの重要な課題に対しての決定がまだなされていない。1つはコンシューマデバイスからの送信を許可するかである。これが許可されれば,ビデオを送るのに十分な帯域を持つ無線ホームネットワーク等が提供可能になる。問題は空き容量は地域により異なるため,デバイスは自己で自動的に空き容量を探す必要がある。Microsoft,Dell等はそれは十分に可能な技術であると言っているが,放送局を代表するMaximum Service Television(MSTV)はコンシューマデバイスが自由に送信する事は放送への障害になる可能性が高いとして,賛成していない。

もう1つの未決定の課題は帯域をライセンス方式にして,無線電話の帯域のように事業者に競売するか,あるいはWiFiが使っている帯域の様にライセンス無しで使える様にするかである。FCCのマーチン会長(共和党)はこれ対してノーコメントだが,FCCの民主党代表のコップス氏とアデルスティーン氏はデジタル移行により,これまでアナログで使われてきた帯域は無線事業者に競売されるので,その分,WiFiの様にライセンス無しで使える帯域を増やすべきだと発言している。

Time Warner Cableが株式公開

Time Warnerの子会社で,全米で第2位のケーブルTV事業者のTime Warner CableはSECに対して1億のクラスA株を登録し,TWCとして株式の公開をする。Time Warner(TWX)はTime Warner CableのクラスA株の82.7%とクラスB株の100%を持ち続ける。TWCは2600万世帯の加入者を持ち,その85%はニューヨーク州,ノースカロライナ,サウスカロライナ,オハイオ,南カリフォルニア,テキサスにあり,ニューヨーク市,ロサンジェルス市では最大のケーブルTV事業者である。