ATSC 3.0の普及状況

アメリカのデジタル放送規格委員会のAdvanced Television Systems Committee(ATSC)は全米75%の世帯で4K対応のATSC 3.0が視聴可能になっていると発表している。これれにより、75%の世帯がATSC 3.0を視聴している、あるいは4K放送が75%の世帯に普及している等の誤解が生まれている。しかし、実際のATSC 3.0の普及率は数パーセントであり、放送波による4Kの視聴はゼロが実情である。

最初の問題は75%と言う数字自体である。アメリカは210の放送地域(DMA)に分かれており、その内の約80地域で最低1つの局がATSC 3.0での放送をしている。それらDMAの世帯数を合計すると総世帯の75%になる。しかし、ATSC 3.0で放送している局がDMA全域をカバーしている訳では無い。例えば、サンフランシスコ・ベイエリア地域の場合、ATSC 3.0での放送はNexstar社のKRON局がサンフランシスコ市のツインピーク頂上のストロ・タワーからV-High帯(7チャンネル)を使い、65 kW ERPで放送している。タワーからサンフランシスコ・ベイエリアDMAの最北端までの距離は270 Km以上ある。KRONには中継局はないので、電波はDMAの全世帯には届いていない。このように、ATSC 3.0で放送している局のカバレッジはDMAよりも狭い場合があり、実際にATSC 3.0がリーチ出来る世帯は75%よりも少ない。

次に75%と言うのは視聴世帯ではなく、視聴可能世帯である。ATSC 3.0を視聴するのはアンテナ受信をしており、ATSC 3.0対応のテレビを持っている必要がある。アメリカの多くの世帯はアンテナを持たずに、多チャンネルサービスの再送信で地上波を見ている。コードカッティングした世帯が増えているが、その殆どはブロードバンドでのテレビ視聴になっている。Nielsenによると、アンテナだけでの視聴世帯は13%、アンテナ併用世帯は5%で、合計で18%程度でしかない。ATSC 3.0受信可能な地域で、アンテナ受信をしている世帯は75%の18%である、13.5%でしかない。

ATSC 3.0対応テレビの普及は普及していない。CEAによると、2024年末でのATSC 3.0対応のテレビ、それに外付けチューナーの合計累計出荷台数は1400万台である。アメリカの世帯数は12.5億であるので、普及率は11%程度である。ATSC 3.0対応チューナー搭載は義務化されていなく、搭載されているテレビはハイエンドのモデルである。アンテナ視聴だけの世帯は低所得世帯であり、$2000以上のハイエンドのテレビを持っている世帯ではない。

ATSC 3.0受信対象は75%の世帯の内、ブロードバンドも利用している、5%のアンテナ世帯で、要するに75%の5%にあたる、4%となる。その内、ATSC 3.0対応テレビを持ち、実際に視聴している世帯はを見ている世帯は半分として、ATSC 3.0の世帯普及率は2%程度でしかない。

テレビを購入する際にATSC 3.0が動機にならないのは、ATSC 3.0で受信しても画質はATSC 1.0と殆ど同じだからである。ATSC 3.0に移行した局は、自局のチャンネルに加え、同じ地域の他局のチャンネルも次世代規格で放送しているので、1局が5つ程度のチャンネルをHDで放送している。例えば、サンフランシスコ・ベイエリアのKRONは自局のCWネットワーク以外に地域のABC、CBS、Fox、NBC、Univision局も放送している。4Kで放送出来る容量は残されてなく、ATSC 3.0での4Kでの放送は行われていない。

ATSC 3.0で放送されている殆どの番組はATSC 1.0のサイマルキャストで、HDである。一部の番組はHDRでなっていおり、一部の地域では、ゲーム等の双方向サービスがあるが、その程度では、高価なATSC 3.0対応のテレビを購入する理由にはならない。ATSC 3.0での放送がATSC 1.0と同じである限り、ATSC 3.0での放送を見る理由は存在しない。