衛星ラジオ会社の合併とモバイルTV

FCCはやっと衛星ラジオ事業者のSiriusとXM Radioの合併を許可した。SiriusとXMが合併の申請を行ってから412日後の決定であった。決定が遅かったのは地上波ラジオ、テレビ放送局を代表するNAB等からの反対が強かった為である。衛星ラジオ事業者はSiriusとXMの2社であり、その合併は独占事業になるとの懸念があるが、Sirius、XMは媒体の問題ではなく、ラジオ市場全体には地上波、衛星、インターネット等が含まれ、独占市場にはならないと反論していた。

FCCはこれらの懸念も考慮し、合併の条件として3年間の料金凍結、プログラムパッケージのアンバンドル化等を要求した。

SiriusとXMの合併の最大の目的は事業の効率化である。衛星ラジオへの加入者数は2007年末で1730万を超えているが(XMが900万、Siriusが8320万)、共に赤字を出し続けている。両社共に同じ様なプログラミングを提供しており、合併することでコストは削減出来る。衛星の電波が届かない地域を補うための地上局の設置方法等で異なっているが、レシーバ技術は基本的な共通性があり、Sirius /XMは合併後もチャンネル単位で有料のプレミアムサービス以外のチャンネルの視聴には既存のレシーバーがそのまま使えると発表している。

衛星ラジオ放送は「ビデオ配信」がテーマのThe Compassの対象外ではあるが、The Compassが注目しているのは統合で余る容量の利用方法である。XMは2つの衛星、Siriusは3つの衛星を持ち、合併後にさらに2つの衛星を打ち上げる計画がある。現在、それぞれ150チャンネル前後を放送している。同じ、あるいは類似したチャンネルも多く、合併後は300チャンネルは必要ない。余った容量を使い、Sirius XMはモバイルTVに力を入れてくると思われている。

モバイルTVと言うと携帯電話向けのビデオ配信を考えるが、携帯端末だけがモバイルではない。モバイルとは移動性の意味であり、移動する物は他にもある。モバイルTVの対象として特に重要な移動体は自動車である。アメリカで販売される新車の10%には後部座席エンターテイメント(Rear Seat Entertainment、RSE)システムとして、ビデオディスプレイ、DVDプレーヤを含むA/Vシステムが搭載されるようになっている。アフターマーケットのRSEを加え、すでに456万台の車にRSEが搭載されている。長い時間の運転が多いアメリカで、子持ちの親にはRSEはありがたい製品である。登録車両におけるRSEの普及はまだ1.8%であるが、2012年には9.5%に達すると予測される。モバイル放送の対象としてこの市場を無視出来ない。Sirius、XM共に衛星ラジオ放送の市場として狙ってきたのは自動車であり、共に自動車会社と契約し、衛星ラジオのチューナを自動車に搭載させることで、加入者数を増やしてきた。

Sirius はすでにBackseat TVと呼ばれる自動車向けのモバイルTVサービスを行っている。Backseat TVのチューナは300ドルで販売されており、既存のRSEシステムにつなぐことで子供向けのプログラミングを提供しているNickelodeon、Disney Channel、Cartoon Networkの3つのチャンネルが視聴可能になる。Backseat TVの月額料金は$6.99で、Siriusラジオへの加入が先に必要(月額$12.95)である。容量が無く、チャンネル数が少ないのがBackseat TVの弱点であるが、XMと合併し、ラジオチャンネルを統合することにより、モバイルTVに使える容量は大きくと増す。

自動車向けのモバイルTVを狙っているのはSirius XMだけではない。アメリカのデジタルTV放送規格化団体のATSC(Advanced Television Systems Committee)は現在、地上波デジタル放送の一部を使ったモバイル放送の規格化を行っているが、その規格はATSC Mobile/Handheld(M/H)と呼ばれ、ハンドヘルド端末だけではなく、移動する環境での利用もその対象である事を明確にしている。ATSC M/Hでは高速移動する車の中から受信出来る事がその要求の1つにされている。

携帯電話向けのモバイルTVサービスを行っているQualcommのMediaFLOも自動車向け市場を意識しており、今年のNAB(National Association of Broadcasters)では自動車を会場に持ち込み、後部座席向けのサービスのデモンストレーションを行っていた。
家庭向けの多チャンネルサービスを行っているケーブルTV、DBS事業者がこのトレンドを無視している訳が無い。DISH Networkは今年の初めに行われたアナログ停波の跡地ライセンスの競売で、7.1億ドルを投じ、アメリカ本土のほぼ全域で6 MHz帯のライセンスを得ている。この利用方法は発表されていないが、DISH NetworkはDVB-SHを使ったテストを行うことを発表している。

ケーブルTV事業者の大手はSprintとClearwireのWiMAXのジョイントベンチャーに参加しているが、狙っているWiMAXのアプリケーションの1つにモバイル放送が含まれている。このモバイルTVの計画にはClearwireの持ち主(クレッグ・マッカウ)が持つ、もう1つの会社、ICO Globalが関わると思われている。ICO Globalは元々はIridiumと同様な衛星を使ったモバイル通信のネットワーク構築を目標としていたが、Iridiumの失敗で、事業目的をモバイルTVに変更している。ICOは2008年4月にその大規模衛星のG-1の打ち上げに成功している。G-1はDVB-SHを使ったモバイルTVを提供するが、対象は携帯電話ではなく、自動車向けである。ICOは双方向機能を持ち、ビデオ放送だけでなく、インテリジェントなナビゲーションを含めた車向けの情報サービスを提供する。ICOはそのMIM((Mobile Interactive Media)と呼ばれるサービスのアルファ・テストをノースカロライナのラリー・ダーハムとラスベガスで行う予定であり、テストにはClearwireも協力をする。テストではICOは1チャンネル500 Kbps程度で、10~15チャンネルのビデオ放送する予定である。

自動車向けのモバイルTVが本格的に動き始めるのはATSC M/Hが開始される2009年以降になると思われているが、SirusとXMの合併で動きは早まる可能性もある。現状では携帯電話向けのモバイルTVがリードをしているが、ATSC M/H、その他の自動車向けモバイルTVのサービスで市場は急速に成長すると期待されている。NSI Research社の予測では2012年のモバイルTVサービス市場は広告、有料コンテンツ、視聴者料収入を合わせ、101億ドル市場になり、自動車向けモバイルTVサービスはその42%を占める。

CropperCapture[5]

NSI Researchは7月に携帯電話と自動車向けのモバイルTV市場を分析し、2012年までの市場予測を行っているレポート「アメリカのモバイルTV市場: 携帯電話向けと自動車向けのモバイル放送サービス」を出版している。

3D映像の標準規格化

映像業界の技術団体のSMPTE(Society of Motion Picture and Television Engineers)は家庭向けビデオの3D映像のマスタリング標準規格を作るための3D Home Display Formats Task Forceを設立した。このタスクフォースは地上波、ケーブル、DBS、インターネット、それにDVD等のパッケージメディアを使った3D映像コンテンツの標準規格化を行う。

映画向けには「Journey to the Center of the Earth」、「Hannah Montana & Miley Cyrus: Best of Both Worlds Concert」等がリリースされ、好評であり、テレビでもDisney Channelが7月26日にHannah Montanaのコンサートを3Dで放送し、3D映像に対する関心が高まっている。TVディスプレイでも三菱、Samsung等がMotorola社の3D HD対応のDLPチップを搭載し始めている。

3D Home Display Formats Task Forceの大きなチャレンジは放送からインターネット、そしてDVDからBlu-rayと様々な提供媒体で共通して使える技術を選択する事である。タスクフォースの最初の会議は8月19日に南カリフォルニア大学のEntertainment Technology Centerで行われる。

TVを含めた家電製品の団体、Consumer Electronics Association(CEA)の標準規格化グループもこのコンテンツ側の動きを受けて、3D映像の受信側の規格化を設立するかのミーティングを10月22日に開催する。

マルチキャストへの関心が再燃

地上波局はデジタル移行後の新サービス(新収入源)としてマルチキャストに強い関心を示していた。圧縮技術等の進歩で、デジタル放送容量の19.4 Mbpsで1つのHD番組に加え、2、3のSD画質の番組を同時放送する事が可能になる。しかし、TV視聴世帯の80%以上が地上波放送を多チャンネルの再送信で視聴しているアメリカでは、マルチキャストを行っても、多チャンネル事業者が再送信をしてくれない限り、視聴者数は限られてしまう。放送局はFCCに対して、マルチキャストも再送信義務規制の対象にするように求めたが、FCCはこれを拒否したことでマルチキャストに対する関心は冷めていった。しかし、マルチキャストへの関心が再燃を始めている。

その1つの動きはMGMによるマルチキャスト向けの新ネットワーク「This TV」の設立である。This TVはMGMの持つ4100以上の映画、1万時間以上のTV番組の資産を使い、24時間の放送を行う。放送は24時間であるが、This TVと契約した地上波局は、独自のニュース、天気予報、あるいは地元スポーツ中継を加える自由がある。This TVは映画主体でスタートするが、MGMの持つ昔のTV番組の再放送も行う。放送局グループのWeigel Broadcastingが最初の提携局となり、そのシカゴ、ミルワーキー、サウスベンド(インディアナ)の放送局で、この秋からThis TVの放送を開始する。

また、Media Access Project(MAP)はFCCに対して、新たな「Sクラス」と呼ばれる放送局の種類を作ることを提案している。Sクラスは独自の放送設備を持たず、マルチキャストを使って放送する公共局であるが、通常の放送局と同様に、多チャンネル事業者に対する再送信権利を持つ。Sクラスの局は地域団体、マイノリティー団体等が地元放送局からマルチキャストの帯域を借りて設立する。基本的には公共局であるが、50%未満であれば、営利放送も出来る。マルチキャスト帯域の貸し出しは24時間の必要は無く、地上波放送局はHD放送を行っていない時間帯に限った貸し出しも可能になっている。以前、FCCのマーチン会長もマルチキャストを使った公共局の設立を提案したが、MAPの案はこれにさらに現実性を加えた物になっている。ケーブルTV事業者には公共団体に対してパブリックアクセス向けのチャンネルを提供する義務があり、これを使って全米で700以上のパブリック・アクセス局が活動をしている。このSクラス局はこれを拡大する事になる。当然、多チャンネル事業者は反対をするであろうが、デジタル放送の空き容量を公共局に使わせると言うアイデア自体は良い物であり、議論は続くであろう。

増えるTV視聴時間

Nielsenは既存のTV放送だけでなく、オンラインビデオ、モバイルTVの視聴も同時に増えていると言う統計を発表した。Nielsenの統計ではTVの視聴時間は2008年5月では視聴者平均127.16時間で、昨年同期の121:48時間から4%増えた。しかし、通常のTV視聴が増えただけでなく、タイムシフト録画の視聴は56%増え、5:50時間になり、さらにインターネットビデオの視聴は2:19時間、モバイルTVは3:15時間になっている。

月平均TV視聴時間(時:分)

‘08年5月

‘07年5月

成長率

家庭でTV視聴

127:15

121:48

4%

タイムシフト視聴

5:50

3:44

56%

インターネット利用

26:26

24:16

9%

インターネットビデオ視聴

2:19

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モバイルTV視聴

3:15

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DTVコンバーターはまだ630万台

米国政府は3350万台のDTVコンバーターの購入を補助するクーポンの予算があり、すでにその半分以上の1900万のDTVクーポンが支給されているが、実際に使われたクーポンはまだ630万枚でしかない。DTVコンバーターの在庫不足で、購入出来るまでに期限の90日が過ぎてしまったクーポンはすでに300万を超えている。

DTVクーポンの運営を行っているNational Telecommunications and Information Administration(NTIA)はすでに150のDTVコンバーターのモデルを認証したと発表している。