ATSC 3.0への移行

NABはFCCに対して現行のATSC 1.0から3.0への移行の規制作りを求めた。NABの計画では2028年2月末に、全部で210ある放送地域中のトップ55地域の放送局はATSC 3.0への移行を完了させる。そして、期限までに移行出来ない55地域の小規模局、非営利局、それに残りの155地域の放送局は2030年2月末までに次世代規格への移行をする。最初の移行までは3年しか無いが、NABはATSC 3.0への移行はテレビ局の生き残りのためには不可欠だと訴えている。

ATSC 3.0での放送はすでに80近い地域で開始されており、人口の75%程度をカバーしている。ATSC 3.0には後方互換性が無く、さらにATSC 3.0での放送は自主的であるので、新たなチャンネル帯域は提供されていない。テレビ放送帯域は減らされており、帯域の余裕は無い。そのため、ATSC 3.0に移行した局は同じ地域の他局に主チャンネルとサブチャンネルを放送してもらう必要がある。その代わりに、ATSC 3.0局はATSC 1.0での放送を頼んだ局の主チャンネルをATSC 3.0で放送している。

ATSC 3.0局は1つのチャンネル帯域で3から5個のチャンネルを放送するので、4K等のATSC 3.0で可能になる高度なサービスを提供する帯域の余裕はなく、殆どはATSC 1.0のサイマルキャストである。ATSC 3.0の中身は1.0と同じであり、3.0での放送を見る必要はなく、ATSC 3.0対応のTVは売れていなく、累計出荷台数は1500万台でしかない。だが、放送局所有会社はATSC 1.0での放送を終了させることで、次世代放送への移行が進み、地上波局がストリーミングに対抗することが可能になると訴えている。


NSI Research

しかし、ATSC 3.0への移行にはいくつかの大きな反対が予想される。1つはATSC 3.0のチューナーを搭載しなければならなくなる家電メーカーである。NABはすべてのテレビにATSC 3.0対応チューナーの義務化を求めている。Consumer Technology Association(CTA)は放送を「衰えているビジネスモデル」と呼び、ATSC 3.0チューナ搭載義務はテレビの値段を無駄に高くするだけだとし、すでにNABの要求に反対している。

地上波放送を見るためにはテレビの買い替え、あるいは外付けチューナー購入が必要がになるので、消費者団体も反対をするでろう。テレビ受信機はすべて輸入であり、トランプ政権による輸入関税が続けば値段は高くなる。それにATSC 3.0対応チューナーの価格が追加され、より高価になるテレビの購入をしなければならなくなることは問題である。

多チャンネルサービス事業者に対する再送信義務も大きな問題である。多チャンネルサービス事業者に対してATSC 3.0での放送を再送信するように規制を書き換える必要がある。しかし、ATSC 3.0で再配信することは大きな出費であり、多チャンネルサービス事業者は反対する。現在のケーブルTV、あるいは衛星放送では4Kの配信は出来ない。コードカッティングで収入が減っている多チャンネル事業者がATSC 3.0に対応するための投資が必要なる規制には猛であろう。ATSC 3.0での放送をATSC 1.0で再配信させる方法もあるが、殆どの世帯は多チャンネルサービスの再配信で地上波を見ているので、こも方法ではATSC 3.0の普及にはならない。さらに、多チャンネルサービスの25%を占めているvMVPDは定義上、ケーブルTVでは無いので、地上波の再送信義務自体が無く、この規制の書き直しも必要となる。

大きな反対が予想されるが、FCCはNABに味方をするであろう。カー委員長は以前から放送局の要求には協力的で、ATSC 3.0移行の期限作りにも賛成してきた。また、放送局所有会社の大手のNexstar、Sinclair等はトランプの支持者である。とは言え、3年以下でATSC 3.0チューナー搭載義務、多チャンネルサービスの再送信義務を規制化し、実施させることは不可能でもある。

ATSC 1.0での放送の終了は、放送局所有会社のもう1つの大きな要求である放送局の所有規制緩和とのセットで見る必要がある。FCCは放送局所有会社に対する規制緩和を行い、全世帯の39%を超える放送局をもつことの許可、さらに1つの地域で複数の放送局を持つことを可能にすることを引き換えに、ATSC 1.0での終了を延長をすると思われる。Nexstar等の大手放送局所有会社が大都市では中小局を買収し、小都市では新しい放送局を持つことを許可すれば、1つの局が2つのチャンネルを持ち、ATSC 1.0と3.0での放送が可能になる。そして、ATSC 1.0の終了を2030年以後にすれば、ATSC 3.0チューナー搭載義務、それに再送信義務の問題も対応する時間が生まれる。放送局所有会社は数年間は両方の規格で放送するコストがあるが、より多くの放送帯域の権利を持つことが可能になる。

地上波局所有会社は以前から放送局所有規制の緩和を求めてきた。前回のトランプ政権の時に動きがあったが、実施される前に政権交代があった。NABは今がチャンスと考えており、4月には放送局所有法の完全な廃止をFCCに求めた。