DirecTV Now

AT&TがOTTベースでの多チャンネルサービスを主流にし、DirecTVの衛星サービスを2020年までに終止するとの報道があったが、その信憑性は低い。もし、AT&Tがこれを実施するのであれば、最低でも自社の営業地域で高速ブロードバンドサービスを導入して行く必要がある。サービスを提供する上では自社で回線を持つ必要は無い。しかし、DirecTV Nowの加入者がケーブルTV事業者のブロードバンドサービスを使っていたのでは、ケーブルTVを事業者を儲けさせるだけであり、AT&Tの儲けにはならない。

AT&TはUverse TVを含め、光ファイバーへの投資を止めており、再開する意図は無い。5Gを使う事は可能であるが、2020年までに十分な普及をさせるのは難しい。もし、OTTでのサービス提供が目的であれば、DirecTVを買収する必要は無く、Uverse TVのOTT化でよく、わざわざ$484億をDirecTVに使う必要は無かった。

OTTベースの多チャンネルサービスが既存の多チャンネルサービスをリプレースする事は困難である。DirecTV等と同等の多チャンネルサービスをOTTで提供するのであれば、最低でも同時に2つ、出来れば4つのHDストリーム(DirecTVのGenie DVRは5チャンネル同時録画可能)、さらには4Kの対応が可能なブロードバンドが必要になる。そのレベルのブロードバンドサービスの月額は$100以上であり、それにOTT多チャンネルサービスの料金を加えると月額は$150を超え、既存の多チャンネルサービスの倍の値段になる。

現在、提供されているDishのSling TV、SonyのPlayStation Vue等のサービスは既存の多チャンネルサービスをリプレースする物では無く、多チャンネルサービスにまだ加入していない人達を狙っている、値段を安くしたエントリーレベルのサービスであり、DirecTV Nowも同様である。OTT化する事で多チャンネルサービスはどの程度安くなるなるのであろうか? 加入対象はすでにNetflix等のOTTサービスは使っている人達であり、それなりの速度のブロードバンドにはすで加入している事を前提にブロードバンドサービスの料金は考慮しないことにする。

OTTでは世帯への回線を保つ必要が無いので、その設備投資が不要である。ヘッドエンドも不要だが、配信サーバー、それにCDNは必要である。既存のケーブルTV事業者の設備は以前からあるもので、すでに投資回収は終わっている。さらにその設備を使い、ブロードバンドサービスでも収入がある事も考慮すると、回線を持っている事がケーブルTVのコストを高くしているとはいない。逆に、限定した地域で事業をしているケーブルTV事業者の方が、加入者が全米に散らばっているOTTより効率は高いであろう。

コンテンツのコストにも差はない。配信媒体がケーブルでも、衛星でも、インターネットでもコンテンツ事業者との契約は同じである。Sling TV、PlayStation Vueは既存サービスより料金は安いが、それはチャンネル数が少ないからであり、同じチャンネルであれば多チャンネルサービス事業者がコンテンツ事業者に払わなければならない契約金は同じである。

既存の多チャンネルサービスとOTTベースでの最大の違いは加入者獲得コスト(Subscriber Acquisition Cost = SAC)である。DirecTVのSACは2014年Q4で$880であった。SACにはマーケティングとSTB(衛星の場合はSTBとアンテナ)、それにその設置コストが含まれる。サービス契約期間の24ヶ月で割ると、月あたりのSACは$36になる。これに対してOTTサービスではデバイスは加入者が提供し、設置コストも無い。だが、様々なデバイス向けのアプリ開発が必要になる。現時点でも主要なモバイル端末、スマートTV、ゲーム機、ストリーム・プレーヤで10程度のプラットフォームがある。アプリ開発、マーケティングを考慮してもSACは月に$30は安くなるであろう。DirecTVの月額$35と発表されている。チャンネルは不明だが、十分に可能な価格である。

しかし、OTT多チャンネルサービスは薄利なサービスである。既存の多チャンネルサービスでは2年目からはSAC分の殆どは儲けになる。OTTは加入が容易だが、脱退も容易であり、チャーン率は高くなり、安定性も低い。加入者がオプションでコンテンツを増やしてくれれば、APRUは増えるが、コンテンツ事業者への支払いも増えるので、大きな収益増加にはならない。加入者がより良い画質の為に高速なネットワークに乗り換えても、OTTサービス事業者の収入にはならない。

Sling TVの加入者数は70万人程度、PlayStation Vueは10万人程度で、成功しているとは言えない。CBS All Access、HBO Nowはそれぞれ100万人の加入者を得ている。さらにHulu、それにGoogleもOTT多チャンネルサービスへの参入を予定しており、DirecTV Nowが短期で大きな成功をする事は難しいであろう。