SinclairのRSNのDTC化の課題

SinclairはDisneyがFoxの買収で得た21の地域スポーツネットワーク(RSN)を$106億で買収した(買収後の2つのネットワークは終了にされ、現時点では19のネットワークがある)。命名権はカジノ事業者のBally’sに売り、Bally SportsとリブランドされたこれらRSNは来年にDTC化がおこなわれる予定である。これは、多チャンネル向けネットワークの今後、それにスポーツのOTTでの配信にも影響する大きな動きになる。

RSNは地域のプロチーム、大学のチーム等の試合の放送をメインにしている。スポーツニュース、その他の番組もあるが、視聴の殆どは試合中継である。RSNが放送権を得ている試合は地上波、あるいはESPN等のスポーツ専門チャンネルが放送しない試合である。例えば、プロ野球の場合、チームのホームゲームは地元のネットワーク系地上波局が放送をするが、アウェイ試合の殆どは放送されない。RSNはこれら試合の権利を購入し、放送している。RSNを加えることで、地元チームのほぼ全試合をテレビで見ることが可能になる。

RSNは有料チャンネルとしてスタートし、その後、ベーシックパッケージに含まれるようになったが、現在ではRSNと契約しない多チャンネルサービスも増えている。RSNの問題は放送権の高騰である。RSNの再送信料は10年前は$2程度であった。ESPN等の一部の高価なネットワークを除く、一般的なケーブルTV向けネットワークよりは高いが、非常に高い訳でもない。RSNを見るスポーツファンは多く無くても、ベーシックなチャンネルとして全加入者が払うので、加入者あたりのコストは高くない。しかし、試合の放送権が値上がり、さらに多チャンネルネットワーク加入者、それにハードコアなスポーツファンが減ることで、RSNのコストは高くなり過ぎている。

RSNの配信契約料が増え、多チャンネルサービス加入者が減れば、加入者あたりのコストは高くなる。さらに、全試合を見たいと思うハードコアなファンが減ったことで、RSN視聴者が減り、コスト効率も悪くなっている。Dish NetworkはRSNとの契約更新をストップしている。しかし、加入者を大きくと失ってはいない。RSNとの契約を続け、月額が高くなっているDirecTVの方がDishよるも加入者を多く失っている。RSNとの契約をしない事業者が増え始めており、vMVPDではYouTube TV、Sling TV、Hulu with Live TVはRSNをカットしており、RSNとの契約があるのはAT&T TVだけである。

RSNとの契約をしない事業者が増えれば、RSNの収入は減るが、チーム、あるいはリーグとの契約は残り、赤字になる。SinclairのSECへの報告では2021年内に同社が支払わなければならない放送権料金は$18.2億ある。この打開のためにSinclairはBally Sportsを2022年にオンラインでも提供し、DTC化する計画を発表した。

Bally Sportのネットワーク

名称

地域

Bally Sports Arizona アリゾナ、ニューメキシコ、ユタ、ネバダ南部
Bally Sports Detroit ミシガン、オハイオ北西、インディアナ北東、ウィスコンシン北東
Bally Sports Florida フロリダ
Bally Sports Great Lakes オハイオ、ペンシルベニア北西、ニューヨーク南西、ケンタッキー一部、ウェストバージニア一部
Bally Sports Indiana インディアナ
Bally Sports Kansas City ミズーリ、カンザス
Bally Sports Midwest ミズーリ、イリノイ南部、アイオワ、ネブラスカ
Bally Sports New Orleans ルイジアナ
Bally Sports North ミネソタ、ウィスコンシン、アイオワ、ノースダコタ、サウスダコタ
Bally Sports Ohio オハイオ、ケンタッキー、インディアナ西部、ペンシルベニア北東、ニューヨーク南西、ウェストバージニア一部
Bally Sports Oklahoma オクラホマ
Bally Sports San Diego サンディエゴ
Bally Sports SoCal カリフォルニア南部、ネバダ南部、ハワイ
Bally Sports South ジョージア、アラバマ、ケンタッキー、ミシシッピ、ノースカロライナ、サウスカロライナ、テネシー
Bally Sports Southeast ジョージア、アラバマ、ミシシッピ、サウスカロライナ、テネシー、ノースカロライナ西部
Bally Sports Southwest テキサス、アーカンソー、ルイジアナ北部、ニューメキシコ一部
Bally Sports Sun フロリダ
Bally Sports West カリフォルニア南部、ネバダ南部、ハワイ
Bally Sports Wisconsin ウィスコンシン、ミシガン一部、ミネソタ西部、イリノイ北西、アイオワ

 

Sinclairの発表ではBally SportsをDTC化した場合の加入者は440万人である。その内の170万人は多チャンネルサービスに加入していない人たち、140万人は加入しているが、Bally Sportsを受けていない人たちである。残りの130万人は多チャンネルサービスに加入し、Bally Sportsを受けている人たちで、カニバリゼーションであるが、Sinclairは大きな規模ではないと言っている。しかし、多チャンネルサービス事業者はそうは見ていない。Sinclairは多チャンネルサービス事業者との会話は進んでいると言っているが、多チャンネルサービス事業者は今回の発表は自分たちとの会話無しで行われたと言っており、DTC化した場合は契約違反でBally Sportsの配信をストップするとも言っている。

Sinclairは多チャンネルサービスに加入し、Bally Sportsを受けている人の130万人がBally SportsのDTCサービスに加入すると予測している。すでにケーブルTVでBally Sportsを受けているのであれば、DTCに加入する必要はないので、130万人は多チャンネルサービスを脱退し、Bally SportsのDTC版に加入するとのことになる。コードカッティングに悩んでいる多チャンネルサービス事業者に取り、Bally SportsのDTC化で130万人を失うと言うのは大きな問題である。

Sinclairは2021年のBally Sportsの収入は約$30億と予想している。これは、多チャンネルサービス事業者との契約料と広告収入である。もしも、多チャンネルサービスがBally SportsのDTV化に反対し、放送をストップした場合、$30億を失う。その場合、その収入もDTCで得る必要がある。SinclairはDTC版への加入者が440万人として、その収入は$20億(サブスクリプションと広告がそれぞれ$10億)と予想している。多チャンネルサービスがBally Sportsを扱わなくなっても、視聴者がDTC版に加入するのであればSinclairの減収にはならない。

問題はDTC版のBally Sportsの料金が月額$23と言うことである。$23でもBally Sportsに加入するスポーツファンがそれほどいるであろうか。スポーツ試合は最初から最後まで見るのではなく、話題になった場面だけを見ているファンが増える中、毎月$23は高すぎる。これは、チャンネルを見ていない人もその料金を払うと言う、多チャンネルサービスのビジネスモデルがもたらしている問題である。

これは特にスポーツのOTT配信に大きな課題である。スポーツの放送権利は高価だが、ベーシックチャンネルとしてスポーツを見ていない人も払っているから成り立っている。もし、RSNが月額$20の有料チャンネルであったら成り立たなかったであろう。ESPN+は$6だが、これはESPNのDTCではなく、補完的なサービスとして提供されているからで、ESPN自体をDTC化しようとすれば、料金は$40程度になり、現実的ではなくなる。多チャンネルサービス加入者が減ることで、スポーツを見ない人もスポーツ放送権料を払うスポーツ専門チャンネルのビジネスモデルは困難になっているが、DTC化も難しい。