2007年7月からケーブルTV事業者がレンタル提供するSTBにCASを内蔵する事が禁止された。ケーブルTV事業者はCASを現在はPCMCIAカードとして提供しており,いずれはソフトウェアとしてダウンロード可能なDCAS(Downloadable CAS)に移行する予定である。このCAS内蔵禁止の規制はケーブルTV事業者に対してサービスとハードウェア(STB)の切り離しを求める政策の一環である。
1968年にAT&Tが電話加入者に対して電話機のレンタルを義務化する事を禁止したカーターフォン裁定の様に,視聴者が自由にSTB(あるいはSTB内蔵のTV等)を購入する事を可能にする政策であり,1998年の通信法で決められた。DCASを別途提供する事で,デジタルケーブルTVのチューナの標準規格を可能にし,DVR,TV等にデジタルケーブルチューナを内蔵した製品を家電ベンダーが提供する事を可能にする。これら製品はDCR(Digital Cable Ready)と呼ばれる。
このCASの切り離し規制により,家電ベンダーが提供するDCR製品の普及が始まっているか? その答えはNOである。ケーブルTV事業者が提供する様々なサービスに対応する事が可能なDCR製品はまだ提供されていない状態である。現在のDCRはケーブルチャンネルを受信する事は出来るが,EPG,VOD等の双方向アプリケーションを受けることが出来ない。
CASの切り離しはハードウェアの互換性でしかない。ケーブルTV事業者が提供するEPG,VOD等のサービスに対応するにはソフトウェア上の標準規格も必要となる。このソフトウェア・レベルの規格としてケーブルTV事業者はOCAP(OpenCable Application Platform)と呼べれるミドルウェアを開発し,それを標準規格化する事を求めている。しかし,家電ベンダーの殆どはこのOCAPを標準規格として採用する事に反対を続けている。家電ベンダーはOCAPは高度なプロセッサーを必要とする規格で,DCR製品を不必要に高くすると言っている。家電ベンダーが本当に恐れているのはOCAPがさらなる力をケーブルTV事業者に与える事である。OCAPは汎用性の高いミドルウェアであり,ケーブルTV事業者がOCAPベースのソフトウェアを提供していくことで,STB,あるいはDCRに様々な新しい機能を加えて行くことが出来る。家電ベンダーはインターネット等を使って,TVに新しい双方向機能を加え,新たな収入にしようとしているが,OCAP対応のDCRでは付加価値機能はケーブルTV事業者が加え,それで儲ける事が出来てしまう。家電ベンダーが売る,DCRまでもケーブルTV事業者がコントロールすれば,家電ベンダーがTVに付加価値を付け,新たな収入を作り出す夢も消えてしまう。
ケーブルTV事業者はSTBの標準規格としてハードウェア規格のOpenCableに続き,家電ベンダーにミドルウェアのOCAPも採用させる事をFCCに対して求めている。これに対して,家電ベンダーを代表するCEA(Consumer Electronic Association)は,OCAPではなく,DCR Plusと呼ばれるプロトコルを押している。DCR PlusはOCAPの様な汎用のミドルウェアではなく,EPG,VOD,SDV(Switched Digital Video)等の現在使われ始めている双方向サービスだけに対応する為のプロトコルであり,低コストでTV等に組み込むことが可能である。しかし,DCR PlusはOCAPのサブセットでは無いので,実現するにはケーブルTV事業者はヘッドエンドを新たにDCR Plus対応にする必要がある。
ケーブルTV事業者は当然,DCR Plusには反対である。DCR Plusは現在提供しているVOD等のサービスには対応出来るが,電話着信番号のTV画面表示,双方向番組/CM,ゲーム等のアプリケーションには対応出来なく,ケーブルTVの機能を現在のままでストップさせる事になってしまう。DCR Plusは将来性の無い規格であり,これを標準規格とする事は今後の革新を無くしてしまうとFCCに訴えている。
ケーブルTV事業者と家電ベンダー間の歩み寄りは無く,この決着はFCCが付けなければならない事になり始めている。これは2008年にFCCが行う大きな決定の1つになる。マーチン会長はどちらを支持するかははっきりさせていないが,これまでの動きを見るとマーチン会長はケーブルTV事業者嫌いで,CEAのDCR Plusを支持する可能性が高い。しかし,マーチン会長一人の決定では無く,残り4人の委員の支持が必要になる。先月の70/70ルールにおいて,マーチン会長は他のFCC委員のサポートを失っている事が明らかになっており,OCAP,あるいはDCR Plusが採用されるかは全く予期出来ない状況である。
なお,OCAPに関しては意味不明の略語と評判が良くなく,これを開発したCableLabsはOCAPの名称を辞め,Tru2Wayとする事でイメージチェンジを行おうとしている。
