MSOとDBS: VODとHDによる戦い

DBS(デジタル衛星)事業者が1990年代に登場して以来,DBSとケーブルTVは多チャンネルサービスの加入者をめぐる激しい戦いをしてきた。デジタルサービスによる豊富なチャンネル数を武器にケーブルTVの加入者を奪ってきたDBSに対して,ケーブルTV事業者はそのネットワークをアップグレードし,デジタルサービスを開始すると共に,ケーブルモデムによるブロードバンドサービスに力を入れ,DBSに対抗してきた。

100チャンネル以上のサービスは当たり前になり,DBS事業者とケーブルTV事業者はそれぞれ次の武器を選んだ。DBS事業者の選んだ武器はHDで,ケーブルTVより先により多くのHDチャンネルを提供する戦略を取った。DirecTVは新たに4つの衛星を打ち上げ,1500以上のローカルチャンネル,150以上の全米ネットワークをHDで放送する容量を確保する事を目的に2005年から衛星を打ち上げ始め,2007年11月には72の全米ネットワークをHDで放送開始した。Dish NetworkによるHDへの投資は遙かに少ないが,2005年にCablevisionが開始したHD専用のDBSサービスのVoomの衛星とそのサービスを買収し,DirecTVより早く,HDサービスを開始している。

これに対して,ケーブルTV事業者はDBS事業者の提供出来ない,双方向サービス,特にVODをその武器にする戦略を選んだ。限りある帯域と予算をVODに回すことは,HDへの対応を送らせることになるが,ケーブルTV事業者はHDコンテンツより,見たい物を見たいときに選べるVODのアピールがより高いと考えた。

どちらの戦略が功を奏しているか? VODの利用は大きくと伸びている。Comcastの発表では2007年9月の時点で,1万のタイトルを提供し,2.52億回の視聴があった。しかし,加入者の増加には大した影響は内容で,Comcastは2007年第3四半期に6.5万世帯の加入者を失っている。Comcastだけでなく,Time Warner Cableは8.3万,Cablevisionは1.6万,Charterは4万と,ケーブルTV事業者の加入世帯数は軒並みにダウンした。

ComcastのVOD利用数

月

タイトル数

利用回数

2004年7月

1,700

52,000,000

2005年7月

3,800

127,000,000

2006年7月

8,000

180,000,000

2007年9月

10,000

252,000,000

Comcast

これに対して,2007年第3四半期にはDirecTVは加入者数を24万,Dish Networkは11万増やした。HDTVの売上げは急成長しており,PricewaterhouseCoopersによると2007年にはHDTVの普及世帯数は2500万に達した。HDTVを購入した世帯は,HDのコンテンツを求め,HDのチャンネル数が多いDBSサービスに乗り換えている様である。

CropperCapture[2]

VODは魅力的なサービスであり,HDのコンテンツもあるが,使ってみないとその魅力が分からない問題がある。これに対して,HDはちょっと見ただけで,画質の良さは分かり,HDのチャンネル数を比べると,DBSが多く,優位に立っている。

しかし,これで決着がついた訳ではない。ケーブルTV事業者はSDV(Switched Digital Video)等で帯域の利用効率を高め,HDチャンネルを増やそうとしている。ケーブルTV事業者がHDより,VODを優先した事は短期的には失敗であったかも知れないが,VODが失敗している訳ではない。DVRの誕生から普及までかなりの時間がかかったように,VODの魅力が浸透するに時間がかかっているが,オンデマンド性,双方向性は今後,重要になっていく。DBS事業者はこの脅威にどう対抗するかの答えをまだ出していない。さらに,DBS事業者とケーブルTV事業者で見ると,HD,あるいはVODのどちらかの選択になるが,電話事業者はすでにVOD,HDの両方を提供するサービスを提供し始めており,電話事業者のビデオサービスの提供地域が増える事で,彼らのインパクトも増していく。