AT&TのDirecTV買収

ComcastのTime Warner Cable買収により、Comcastは殆どの全米主要都市で多チャンネルサービスとブロードバンドの提供が可能になる。通信事業者として、AT&T、Verizonの方がComcastよりも大きいが、固定網では営業地域が分かれている電話事業者では、Comcastの様に主要都市の殆どサービスを提供する事は出来ない。

多チャンネル事業者、それに通信事業者はいかにこの脅威に対応するかを考えなければならない。AT&Tの反応は素早く、DirecTVの買収計画を発表した。AT&TはDirecTVの買収に$485億を払い、さらにDirecTVの$186億の負債を引き継ぐので、実質は$671億の買収になる。

これにより、AT&Tが得るのは2025万世帯の加入者である。AT&TのUverse TVの加入者は546万世帯であるので、DirecTVを買収してもComcast/TWCの2900万世帯(400世帯を手放した後)を抜くことは出来ず、2位であるが、多チャンネルサービスを全米で提供する事が可能になる。しかし、AT&TのUverse TVはIPTVで、DirecTVは衛星放送であり、2つのプラットフォームを持つ事になる。

AT&TのDirecTV買収目的は、多チャンネルサービス市場での対応だけではない。ブロードバンド市場でいかにComcast/TWCに競合するかも、AT&Tの大きな課題である。ブロードバンド市場では、Comcast/TWCは多チャンネルサービス以上に大きな勢力になる。400万世帯のケーブルTVサービス加入世帯を手放しても、Comcast/TWCのブロードバンド市場におけるシェアは32%になる。2位はAT&Tだが、同社のシェアは18.5%で大きな差が出来る。より高速であるとの理由で、DSLよりケーブルモデムの成長率が高く、ケーブルモデムがブロードバンドに占める率は2007年の54%から2013年には、58.5%になっている。この動向を考慮すると、Comcast/TWCとAT&Tの差はさらに広まる可能性が高い。

AT&TはプロジェクトVIP(Velocity IP)としてその固定ブロードバンド網の高速化に乗り出している。しかし、ネットワークのアップグレードは時間がかかる。また、プロジェクトVIPはAT&Tの固定電話回線の地域が対象で、他の都市は含まれ無く、プロジェクトVIPだけではComcast/TWCのように全米殆どの主要都市でのサービス提供は不可能である。Verizon、CenturyLink等を買収し、昔のAT&Tに戻れば良いが、それは司法省が絶対に許さない。

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だが、ブロードバンドを持たないDirecTVの買収がいかにブロードバンド市場での対策になるのか。AT&TはDirecTVの買収により、衛星放送とIPTVの融合を狙っている。衛星放送は、全米をカバーしているが双方向性が無い事が大きなデメリットである。IPTVには高い双方向性ががあるが、リニア放送だけの場合、効率性は悪い。現在、AT&T Uverseでは4つのHDチャンネルの同時視聴が可能だが、いつも4チャンネルが使われている訳でなく、また殆どの場合はIPTVのメリットの双方向性は活用されていない。リニア放送は衛星で行い、VOD等の双方向サービスはIPを使う事で効率の高いシステムを作れる。AT&Tは、Uverseを提供する前に、このようなハイブリッドのサービスを試した事がある。

視聴者の多いチャンネルは衛星を使い放送し、視聴者の少ないチャンネル、それにVODはIPTVで配信する事で、衛星、IP網の両方で容量の節約が出来る。視聴者の少ないチャンネルはIPで送る事で空いた衛星放送の容量は4K放送に使うことが出来る。主要なチャンネルが衛星配信になる事で、IP網でのビデオトラフィックが減り、より高速なブロードバンドサービスの提供が可能になる。AT&Tは自社で固定回線を持たない地域では固定LTEを使ったブロードバンドサービスを始めている。固定LTEでUverse TVと同様に4つのHDチャンネルの同時視聴を可能にする事は難しい。しかし、視聴の多いチャンネルは衛星で放送し、固定LTEはVOD主体であれば現実的になる。

ComcastによるTWC買収と同様にこの買収にもFCCと司法省の許可が必要になる。もしも、ComcastのTWC買収が認められれば、この買収も認められるであろう。Comcastに対してはTWCの買収を認め、AT&TにはDirecTV買収を拒否する可能性は無く、どちらもOKか、どちらも駄目のどちらかになる。AT&TとDirecTVの買収契約には、AT&Tがこれを破棄する事を可能にする項目が含まれている。それは、DirecTVがNFL(National Football League)とのNFL Sunday Ticketの契約更新が出来なかった場合である。DirecTVはテレビで放送されていないNFLの試合をブロードバンドで配信する独占権を持ち、DirecTVのサービスの大きなセールスポイントになっている。2015年の契約額は14億ドル規模と推定されている。