地上波再送信のライセンス料

米国では地上波再送信を行う多チャンネル事業者(ケーブル,DBS,IPTV等)にはサービス地域の全部の地上波局を再送信しなければならない規制(Must Carry)がある。Must Carry規制下で再送信をしてもらう局には,多チャンネル事業者に対して送信ライセンス料を求めるなどの交渉の権限は無い。しかし,放送局はこのMust Carry権を辞退する事で,再送信料を含めて,再送信の条件を多チャンネル事業者に求める事が出来る。Must Carry権を辞退した局の再送信を多チャンネル事業者は拒否する事も出来る。

大手ネットワーク系の局は通常Must Carryを辞退していが,彼らはこれまでケーブルTV事業者には送信料金は請求してこなかった。しかし,その代わりに,局から広告を購入する事を約束させたり,あるいは同系列のケーブルTVネットワークを良い条件で送信する事を求めてきた。例えば,FOX系の地上波局を持つFOX Broadcastingであれば,地上波のFOX局の再送信の条件にそのケーブルTVチャンネルであるFox News,Fox Sports,FX等を高い料金で送信する事を求めてきた。ケーブルネットワークを持たない局会社は特定額の広告を購入する事を求めてきた。

しかし,変化は起き始めている。2004年末にテキサス,アーカンソー,ルイジアナの数都市でCBS系とNBC系の放送局を持つNexstarはそれら地域のケーブルTV事業者のCox,Cable One等に対して,これまでの広告購入では無く,直接に再送信料金を請求した。Cox,Cable Oneは共にこれを拒否し,Nexstarの持つ放送局の再送信を中止した。この争いでNexstarの広告収入は減り,また,Cox,Cable Oneは加入者を怒らせ,一部をDBS事業者に奪われたが,どちらも譲らずに戦いは2005年末まで続き,やっと和解をした。その内容は公表されていないが,MSOは広告の購入額を増やすことを約束したが,再送信ライセンス料の請求は最後まで拒否したと言われている。

衛星事業者は2000年前後に地上波再送信を始めた。衛星事業者は新しいサービスとして地上波再送信を提供し,ケーブルTV事業者のような力は無く,地上波局は再送信料を求めた。地上波局はDBS事業者に対して,1視聴者あたり,月10セントから20セントの送信料金を請求している。しかし,これは最大で月2ドル(ESPN等の場合)と言われるケーブルネットワークが求める料金よりかなり安い。地上波局の送信料を安くする代わりに,ケーブルネットワークには高めの料金を支払ってもらう構造がある。

EchoStarは地上波局の安い再送信料金を理由に割高なケーブルTVネットワークの支払いが求められる,この構造を崩そうとしている。最近,EchoStarは12のABC局,10のNBC局等を持つHearst-Argyleに対してその地上波局の送信料金を20セント程度から一挙50セントに値上げする条件を提示した。Hearst-Argyleが喜んでこれに応じた時点で,EchoStarは別途交渉中であったHearst-Argyleの親会社のHearstが50%の株を持つLifetimeとLifetime Movie(Disneyが他の50%を持つ)の2つのケーブルネットワークの値上げを拒否し,すぐさまにこの2つのネットワークの送信を停止してしまった。EchoStarはHearst-Argyleの局に対して正当な価値の送信料を払う事に応じたので,今後はLifetimeに割高な料金を払う必要は無くなったと主張し,逆に値下げを求めた。LifetimeはEchoStar全加入者の1200万が視聴対象であるのに対して,Hearst-Argyle局がカバーしている地域のEchoStar加入者数は180万である。180万世帯に対して30セント多く支払う方が,1200万世帯に対して5セントの値上げを求められるより安い。

この争いはすぐに和解した。その内容は公表されていないが,Hearstが折れ,Lifetimeの値下げを認めたと推測されている。

1月にViacomは会社をViacomとCBSの2社に分割し,ケーブルネットワークのMTV, Nickelodeon, Comedy Central等はViacom,地上波TVネットワークのCBSとUPNはCBSとした。別会社になった以上,CBSがその再送新条件として,別会社となったViacomのMTV部門を儲けさせるのはおかしな話であり,直接に再送信料を請求するであろう。この時点で,これまで再送信料の支払いをかたくなに拒否してきたMSOがどのように対応するのであろうか。