ATSC規格のモバイル放送

北米のデジタル地上波放送で採用されているATSC(Advanced Television System Committee)規格で使われているVSB(Vestigial Side Band)ではモバイル向けの放送は不可能と言われてきた。しかし,Sinclair Broadcast Group,Samsung,Rohde & SchwarzはAdvanced-VSB(A-VSB)と呼ばれる技術を開発しており,実証実験を成功させた。A-VSBはTurbo-Codingと呼ばれるFEC(前進型誤信号訂正)技術を使う。Turbo-Codingにより困難な環境での受信は非常に良くなるが,その為にビット数を使う。1.5 MbpsのTurbo-Codingの信号は375 Kbps程度のビデオ信号しか送る事が出来ない。しかし,A-VSBは既存のATSCで採用されている8-VSBに下位互換性があり,通常のHDTVの信号と共にモバイル向けの低レゾルーションのビデオ信号を送ることが出来る。

Sinclairは1990年代後半からATSCの規格がモバイル放送に対応していない事を問題にしてきた放送局会社であり,現在A-VSBに積極的に取り組んでいる。Sinclairは9月にこの技術を開発しているSamsungとRhode & Schwarzとの協力で,Sinclairが持つ,ニューヨーク州のバッファローのWUTV局でA-VSBの放送を実際に行ってのテストをした。テストではWUTVは通常の8-VSBを使ったHDTV放送に加え,2つの1.5 MbpsのA-VSBの放送を送った。A-VSBの放送は,モバイル向けのアンテナを取り付けた車で受信された。車にはA-VSBのレシーバとSamsungのYEPPポータブルデジタルメディアプレーヤが搭載され,MPEG-4で送られたビデオを受信した。テストは最高速度80マイルでで動く環境で行われた。Sinclairは十分なレベルでの受信が出来,150マイルにも耐えられると発表している。

使われたA-VSBのレシーバはSTBサイズであり,モバイル環境向けではない。モバイル対応にするにはFECの回路を小型化する必要がある。Samsungは小型化は可能であると語っている。このテストの結果を受け,ATSCではA-VSBの評価を10月から開始した。早ければ2007年7月頃にはA-VSBをATSCの規格とする事の検討が始まる。