ケーブルTV,DBS等の多チャンネルサービスへ加入している世帯が85%もあるアメリカで地上波放送局が盛って来る事が出来たのはMust Carry規制のおかげである。もし,ケーブルTV等に対して地上波局の再送信を義務化するMust Carryが存在しなければ,ABC,CBS,NBCは存在出来たとしても,全米に1700以上のテレビ放送局があり,大都市であれば大手ネットワーク,スペイン語放送等のその他ネットワーク,独立系局,非営利局を合わせ,20もの地上波局が存在するようにはならなかったであろう。Must Carryは地上波テレビ局とケーブルTV等の多チャンネル事業者の利害関係のバランスを微妙に保ってきた。
しかし,テレビ放送のデジタル移行により,1つの放送局が複数の番組を同時に放送するマルチキャストが可能になり,その再送信義務に関する議論が大きな物になっている。マルチキャストにより,放送局はHD放送を行いながら,数チャンネルのSD番組を同時に放送する事が出来る。放送局は新たな広告収入を得る方法としてマルチキャストに強い関心がある。しかし,現在の規制では再送信義務は1つのチャンネルのみであり,マルチキャストで放送される副チャンネルを再送信する義務はケーブルTV等の再送信事業者には無い。
再送信事業者はマルチキャストの再送信義務には反対している。帯域(チャンネル数)は限られており,マルチキャストの再送信をするには,広告収入のあるケーブルTVチャンネル,有料チャンネル,VOD等に使える容量が減る事になる。
FCCは以前はマルチキャストの再送信義務は無いとしてきたが,2009年2月のアナログ放送の終了が近づき,姿勢が変わっている。最近,FCCのマーチン会長は地上波局がそのマルチキャストの容量を,FCCが許可する団体にリースする事を許す規制を作る提案を行った。これにより,自ら放送設備を持つことが出来なかった小規模な事業者,非営利団体等が放送をする事が出来るようになり,「バーチャル放送局」が可能になる。デジタル化で可能になる新しいサービスとして面白いアイデアであるが,マルチキャストの再送信義務が無ければ,これらのチャンネルを視聴可能な世帯は十数%でしかなく,普及はしない。マーチン会長はこの提案と共に,マルチキャストのチャンネルも再送信義務にする発言を行った。
ケーブルTV事業者,DBS事業者にはこれは大きな負担になり,Must Carry規制の幅を拡げるべきかは2007年の大きな議論になる。
