DTAへの期待

The Cable Showのもう1つの話題はDTA(Digital-To-Analog Boxes)であった。DTAとは米国政府が配っている$40クーポンで購入出来るATSCのデジタル地上波放送をアナログTVで視聴可能にするDTVコンバーターと同じ様な物で、違いはATSCチューナの代わりに、デジタルケーブルのチューナが付いている事である。デジタルケーブルTVで配信する番組をアナログ変換して見えるようにするコンバーター・ボックスである。ベーシックなデジタルSTBとの大きな違いは、EPG、VOD、プレミアムチャンネルへの対応等の機能をカットし、DTVコンバーターの様に数十ドルで製造出来る物である。The Cable ShowではSTBベンダーのMotorola、Cisco、Thomson、Pace、それにEvolution Digitalと言う会社がDTAを展示していた。

DTAへの関心の高まりはケーブルTV事業者のデジタル化への焦りと、諦めの象徴でもある。ケーブルTV事業者はそのアナログ放送をデジタル化してきた。既存のアナログ放送を残し、残りの帯域でデジタル放送を行うハイブリッド型であり、アナログサービスもこれまで通りに提供する事が出来る。問題はアナログは大きな容量を使う事である。アナログ放送の残りでデジタル放送を提供する事は最初は大きな問題では無かった。しかし、デジタルチャンネルが増え、ケーブルモデムの速度が上がり、ケーブルTV電話への加入者が増えていくことで、帯域は満杯になっている。そこに、急速にHDチャンネルへのデマンドが増えてきた。さらに、2009年2月17日のアナログ停波後は、アナログサービスを続けるケーブルTV事業者はアナログとデジタルでの2重再送信を行う義務がある。何とかして、新たな帯域を得ないと再送信規制に対応出来なく、また、HDチャンネルを増やしているDirecTVに負けてしまう。

新たな帯域を得る一番簡単な方法はアナログ放送を止めることである。今、60のアナログチャンネルを提供していれば、アナログサービスを止める事で360 MHzの帯域をリカバーする事が出来る。既存のアナログサービスへの加入者を失わずにこれを行う事は簡単な事ではない。TVの視聴者には2つのタイプがある。より多くのチャンネル、より良い画質を求め、その為には支払いを増やしても良いと思うユーザと、現在のサービスで満足、それ以上は求めていないユーザである。ケーブルTVの加入者の50%~60%は前者である。これらのユーザをより多くのチャンネルが見え、画質も良いデジタルサービスにアップグレードする事は比較的に簡単であった。問題は後者である。ケーブルTV事業者は飴から鞭まで、様々な方法を試した。理想はアナログユーザを、デジタルサービスへ引き上げる事である。数ヶ月間の割引をしても、有料チャンネルに加入したり、VODを使ってくれれば、マイナスにはならない。ケーブルTV事業者はデジタルサービスにアップグレードするアナログユーザに数ヶ月間無料でHBO等の有料チャンネルを提供する等のオファーをしてきた。しかし、これ以上を求めない視聴者には無意味の事である。

飴が駄目なら鞭と、次はケーブルTV事業者はアナログチャンネルを減らし、強制的にデジタルに移行させる方法を取った。アナログ放送は規制上必要な地上波の再送信と数チャンネルの多チャンネルネットワークにして、CNNとかの一般的な多チャンネルネットワークが見たければ、デジタルサービスに加入しなければならない様にした。これ以上を求めない視聴者でも、チャンネルを奪われることには反応する。しかし、彼らは黙ってデジタルサービスに移行するのではなく、怒り、市議会、公共企業委員会等に訴え、ケーブルTV事業者の立場を悪くした。

ケーブルTV事業者の描いていた世界はすべてのケーブルTV視聴世帯の全てのTVに双方向サービス対応のSTB(あるいはTru2wayのテレビ)があり、TV番組を見るだけでなく、VOD、ゲーム、Eコマース等のアプリケーションを使い、新たな収入を得ることである。しかし、双方向STBは高価になり、デジタルサービスの最低月額を高くし、STBが不要のアナログサービスとは同じ価格には出来ない。

DTAには双方向機能は無く、新たなサービスの提供は出来ない。しかし、その分、安く提供出来る。どこまで安く出来るかの鍵はCASにある。CASに対応させるにはライセンス料等で、$10程度値上がる。さらに、CASを搭載するとFCCが求めるCAS分離に引っかかり、CableCARDを採用しなければならない可能性があり、これで数十ドル値上がってしまう。地上波の再送信はCAS無しで出来るが、多チャンネルネットワークの一部はデジタル放送をする際はCASを要求している。ComcastはCAS無しでDTAが出来れば、コストは$35程度になると語っている。

大手ケーブルTV事業者はDTAにコミットした訳ではないが、DTAの導入を開始した事業者もある。オハイオ州のマシロン市のMassillon Cable TVはDTAを使い、アナログサービスを終了させる。Massillon Cableは加入世帯45,000の事業者で、現在750 MHzのシステムを使っている。他のケーブルTV事業者と同様に帯域が不足し始めている。マシロンにはAT&TがU-Verseサービスを始める予定があり、対抗する必要がある。帯域を増やす為にネットワークを1 GHzにアップグレードするには1000万ドルのコストが必要となる。しかし、現在設置されているSTBは860 MHzまでの対応であり、1000万ドルを掛けても100 MHzしか得られない。アナログサービスを止めれば、るためには全加入世帯の全TVにデジタルSTBを置く必要がある。STBはレンタルとして、コスト回収出来ても、事業者が最初にSTBを購入する必要がある。45,000の世帯に平均2.8台のTVがあるとすると126,000台のSTBが必要になる。Massillon CableのデジタルSTBの設置台数は25,000台であり、後100,000台のSTBを購入する必要がある。MotorolaのベーシックなデジタルSTBを使っても、初期コストは750万ドルになる。Massillon CableはEvolution Digital社のDTAを採用する事を決定した。Evolution DigitalのDTAは約$50で、500万ドルで100,000台が購入出来る。

Massillon CableはMotorolaのヘッドエンド、STBを現在使っているので、CASもMotorolaのMediaCipherである。Evolution Digitalは高価になるMediaCipherのCASライセンスしていなく、ノルウェーの通信事業者、Telenorの子会社のConaxのCASをサポートしている。このためMassillon Cableは現在、アナログサービスとして提供している75チャンネルはMotorola STB向けにMediaCipherで送り、さらにDTA向けにConaxでと2重で送る必要がある。それでも350 MHz程度の帯域を回収する事が出来る。Massillon Cableは来年の3月まではDTAを無料で提供するが、それ以降は月額25セントのレンタル料金を請求する予定。