先月のThe Compassで書いたようにケーブルTV事業者のComcast、Cox、Time Warner CableはダウンローダブルCAS(DCAS)を開発する為のジョイントベンチャー、PolyCipherのスタッフを5人に減らし、その開発をMotorola、Cisco、NDSにほぼ移行した。予定ではDCASの開発は今年に完成であったが、それも2009年に延期になり、ケーブルTV事業者におけるDCASの戦略的な重要性は大きくと後退している。
DCASは導入コストが高いCableCARDに代わるCAS分離方法として開発が始まった。CableCARDはハードウェア製品(PCカード)であり、それ自体のコスト以外に、STB側のインタフェース、CableCARDレンタルの管理費用がかかり、CableCARDカード対応のSTBのトータルコストは、これまでのCAS内蔵のSTBより高くなる。DCASにより、CASをソフトウェア化し、STBにダウンロードする事が出来れば、コストは減少する。
しかし、DCAS開発の本当の目的は別にある。CableCARDにより経費が増すことは事実であるが、そのコストは視聴者がはらう事になるので、ケーブルTV事業者の損にはならない。ケーブルTV事業者はCableCARDのレンタル料金として月額$2以上を徴収をしており、コストの回収は難しいことではない。
DCAS開発の本当の目的はMotorolaとCiscoへの挑戦であった。ケーブルTV産業の伝送機器はMotorola(General Instrument)とCisco(Scientific-Atlanta)がずっと独占をしてきた。その独占の背景にはCASがある。どちらのベンダーのCASも独特な物であり、どちらかのヘッドエンドを採用すれば、その会社のSTBを導入する事が必要になる。一度、どちらかのSTBを採用し、加入者宅に導入をし始めるとSTBのリプレースは困難になり、ヘッドエンドを異なるベンダーにスイッチする事は困難になる。日本ベンダーを含め、ケーブルTV機器市場に参入しようとしたベンダーは多いが、この障壁を崩すことは出来なかった。ケーブルTV事業者もMotorolaとCiscoの2社が市場を独占している事には危機感を持っている。CableCARD、Tru2wayでSTB市場開放されて、様々なベンダーが参入出来ても、CAS自体はこの2社が独占をし続け、ケーブルTV事業者はそのライセンス料を支払い続ける必要がある。
もし、DCASのSTBを普及させる事が出来れば、この力関係は変わる。ケーブルTV事業者はSTBの物理的な交換を行わずに、新しいCASをSTBにプッシュする事で、一晩で新しいベンダー環境に移行をする事が出来る。DCASはMotorolaとCiscoの束縛から逃れる為の物であり、DCASの開発を特定ベンダーに任せることは出来なかったために、MSOはPolyCipherを設立し、独自で開発を始めた。しかし、様々なCASをソフトウェア化し、それをセキュアに伝送し、走らせる環境を作ることは、CAS開発の技術的経験が無い、ケーブルTV事業者が容易に出来る事ではない。本来はDCASは昨年のCableCARD採用規制が始まる前に基本的な開発は終わらせ、CableCARDが普及する以前にDCASを採用し始める予定であったが、これは失敗した。さらに、今年になっても開発完了のめどは立たずに、ついにケーブルTV事業者は降参をし、開発をMotorola、Cisco、NDSの3社に任せることになった。NDSのCASはCablevisionが採用しており、これをDCAS開発に加えた事で、2社独占を若干は弱める事は出来るかも知れないが、DCASの目的であった力関係の逆転は出来ない。例え、CASが自由にリプレース出来るようになったとしても、今度はDCASの技術権利はこれらベンダーが持ち、ライセンス料を彼らに支払う事になる。内部開発の失敗により、DCAS採用の本当の目的は果たせない事になり、ケーブルTV事業者に対するDCASの戦略的な重要性は大きくと減ってしまった。
