多チャンネルサービスの崩壊

アメリカではテレビは多チャンネルサービスで見る物であった。多チャンネルサービスが好まれたのは地上波の届かない地域が多くあった事、家の美観的に地上波アンテナが嫌われた事等の様々な理由があったが、ピークの2009年では88%に近い世帯が多チャンネルサービスに加入していた。多チャンネルサービスが普及した事で地上波以外のCNN、ESPN、Nickelodeon、Disney Channel、TBS、Discovery等のチャンネルも誕生した。

しかし、状況は急激に変化している。2017年に多チャンネルサービスのトップ7社だけで、既存サービスから300万世帯を失った。既存多チャンネルサービスとはケーブルTV、IPTV、衛星の3つで、OTTベースの物は含んでいない。これら7社で約85%のシェアがあるので、業界全体では350万世帯を失った事になる。

TiVoが四半期毎に発表している「Online Video and Pay-TV Trend Report」のQ4 2017年版(https://goo.gl/RpSoV1)によると、多チャンネルサービスをキャンセルする最大の理由は「価格が高い」(86.7%)で、2位の「Netflix等のSVODを利用している」の39.7%を大きくと引き離している。調査では多チャンネルサービス加入者の49%は月額$51から$100を多チャンネルサービスに使っている。既存の多チャンネルサービスが高価であるからキャンセルをしているのであれば、$50以下のOTTベースの多チャンネルサービス加入者が増えるはずである。OTT多チャンネルサービスの加入者は2017年に250万世帯程増えているが、350万世帯の減少を埋めることは出来ていない。OTTでの配信を含めても、多チャンネルサービスは100万世帯を失っている。

既存多チャンネルサービスの加入者減少

サービス

加入世帯数

(100万)

1年間の減少

減少率

DirecTV

20.46

-554,000

-2.71%

Dish Network

11.03

-1,140,000

-10.34%

衛星合計

31.49

-1,694,000

-5.38%

AT&T Uverse

3.63

-622,000

-17.13%

Verizon FiOS

4.62

-75,000

-1.62%

Telco2社合計

8.25

-697,000

-8.45%

Comcast

22.36

-186,000

-0.83%

Charter

16.54

-292,000

-1.76%

Altice USA

3.41

-129,000

-3.79%

ケーブルTV3社

42.31

-607,000

-1.23%

7社合計

82.05

-2,2998,000

-3.65%

 

多チャンネルサービス全体での加入世帯数はまだ9830万世帯あるので、減少は1%でしかない。しかし、世帯数は増えているので、横這いであっても世帯増加率分は増えるべきであるので、実質的にはより大きな減少がある。テレビ世帯における多チャンネルサービスの加入者率は2009年の87.8%から83.1%に落ち、全世帯では86.8%から79.7%に落ちている。

これは多チャンネルサービス事業者に取り大きな問題である。AT&TはDirecTVを買収した事を悔いているであろう。AT&TはUverseから撤退し、DirecTVに移行する為にUverse加入者をDirecTVに移そうとした。結果はUverse加入者がサービスをキャンセルするだけで、DirecTVには申し込まない人の方が多く、AT&TはUverseとDirecTVの合計で既存サービスから117.9万世帯を失っている。OTT多チャンネルサービスのDirecTV Nowのお陰で、全体では16万世帯のプラスであるが、料金の安いDirecTVに加入者が移ることは収入上、マイナスである。Time Warnerの買収を完了させ、早くSVODを始めたいが、買収は司法省に反対されている。もしも、DirecTVを買収していなければ、AT&Tの多チャンネルサービス加入者数は少なく、Time Warner買収は大きな問題なく進んだはずである。DirecTV買収が、ここでも裏目に出ている。

ComcastはNBCUniversalとDreamWorksを持ち、SVODを始めるのに十分なコンテンツがある。すでにDreamWorksのコンテンツを使い、子供向けのDreamWorks TVを始めている。そして、今年はNBCUniversal買収の規制条件が切れる事で、Huluへの経営への参加を含め、積極的に動く事が出来る。Comcastはブロードバンド事業者としては最大であり、X1でクラウドベースのプラットフォーム化のノーハウも得ており、多チャンネルサービス事業者の中ではベストポジションにいる。もっと状況が悪いのはDish Networkである。Sling TVは最大のOTT多チャンネルサービスであるが、Dishにはブロードバンドサービスが無く、OTT移行によりブロードバンドでも儲ける事は出来ないの。加入者がDishからSling TVに移行する程、収入が減るだけである。

多チャンネルサービスへの加入者が減っている事はTVネットワークにも大きな問題になる。多チャンネルサービスへの加入者が減れば、当然、ネットワークへの収入は減る。多チャンネルサービス事業者からの加入者料は減り、さらに、視聴者が減ることで広告収入も減る。TVネットワークは、多チャンネルサービス市場を守るために、OTTで配信する事は避け、多チャンネルサービス加入者しかインターネットではコンテンツが見られないTV Everywhereのコンセプト採用で多チャンネルサービス市場を守ろうとした。だが、その効果は無く、TVネットワークも多チャンネルサービスを見捨て始めている。

すでにCBS、HBO等が視聴者に直接配信をし、放送事業者のバイパスを始めている。CBSはSVODのAll Accessを2014年に始め、ほぼ全国でCBS放送の同時配信を行っている。プレミアムチャンネルのHBO、Starz、Showtime等もSVOD化をした。さらに、DisneyもSVOD化を発表し、ESPN Plusを4月にスタートさせ、Disney SVODは2019年に開始する。Viacom、Discovery等も年内にOTTベースのサービスを開始する予定である。

The Diffusion Group(TDG)は2022年迄には主要なテレビネットワークはすべてOTT化をしているとの予想を発表している。この予想が外れるとすれば、それは時期がより早まることであろう。すでにすべてのネットワークはOTT化の準備を進めている。DisneyのSVODサービスが順調に進めば、2019年から2020年にはかなりのネットワークがOTT化をするであろう。地上波ネットワークのABC、Fox、NBCもいずれかはCBSと同様に直接配信をするであろう。ABCのFox買収が成功すれば、Huluの60%はDisneyのものになり、実質的にHuluがABCのSVODになる。ComcastがFoxを狙っているとの噂もあり、FoxがComcastの物になればHuluはNBCのSVODとなる。多チャンネルサービスと映画スタジオを売り、身軽になったFoxはOTT化を積極的に進めるであろう。地上波のOTT化はDisney、あるいはComcastによるFox買収が大きな影響力を持っている。