地上波放送局はケーブルTVを含めた再送信事業者に対して再送信料金を求めることが出来る。しかし,料金を含めた再送信条件を交渉するにはMust Carryと呼ばれているケーブルTV事業者に対する再送信義務を破棄し無ければならない。地上波放送局はケーブルTV事業者に対して,再送信義務法に基づいた再送信を求めるか,あるいはこれを破棄し,再送信条件を交渉する事が出来る。再送信義務を破棄し,条件を交渉した場合,ケーブルTV事業者には再送信を拒否する権利がある。
どちらを取るか,あるいはどの様な条件を求めるかは力関係で決まってきた。視聴率の高くない独立系の局は再送信法に基づいき,再送信をしてもらい,ネットワーク系の局は再送信条件を交渉してきた。しかし,ケーブルTVが普及を続け,多チャンネル市場を独占して来たこれまでは,ケーブルTV事業者が,地上局以上の力を持っていた。再送信条件の交渉と行っても,地上波局を持つ会社は同系列のケーブルTVネットワークの送信等を条件にし,直接的に再送信料金を求める事は無かった。
しかし,DBS事業者の登場がこのバランスを崩し始めた。地上波の再送信を行いたいDBS事業者は,地上波局に対して1視聴世帯に対して,月あたり,数十セントの支払いを行った。そして,DBSの加入者が増えることで,ケーブルTV事業者の独占力は弱まっていった。この結果,再送信料金をケーブルTV事業者にも求める地上波局が現れ始める。
ケーブルTV事業者が支払いに応じるかは,勢力争いである。最初はケーブルTV事業者は拒否し,その局の再送信を取りやめる。当然,その放送局の視聴率は落ちる広告収入が減る。同時に,ケーブルTV事業社には視聴者からの文句が殺到し,加入者をDBSに失う可能性が出る。どちらが先に折れるかの喧嘩である。これまで地上波局は加入世帯数の少ない小さなケーブルTV事業者に対し支払いを求める事はあっても,大手のComcast,Time Warner Cable等に喧嘩を売る事は無かった。
しかし,情勢は地上波局に対して有利になっている。情勢を変えているのはHD放送である。HDテレビの売上げが増えると共に,多チャンネル事業者に対して,HDコンテンツを求める要求が増え,ケーブルTV事業者はHDチャンネルを増やそうとしている。地上波局はHD番組を取引材料に,再送信料金の支払いを求め始めている。地上波局はそのアナログ放送に対してはこれまで通り,無料で再送信をさせるが,デジタル放送の再送信権は与えずに,これが欲しければ再送信料を支払うように求める事が出来る。Comcast,TWC等の大手事業者ほどに,HDに対して積極的であり,この交渉材料は効き目がある。アルバカーキではLin TV社の持つCBS系の局とComcastが,スポーケンではMountain Broadcastの持つFox系局とTime Warner Cableがこのような交渉で争っている他,数件の事例が出ている。
DBS事業者はそのHDのチャンネルの多さをアピールし,Verizon,AT&TもHDチャンネルを増やすことに力を入れており,ケーブルTV事業者として,HDを再送信しないわけには行かない。例えば,1月のスーパーボウルをHDで放送出来ないと行ったら,ケーブルTVは多数の加入世帯を失う事になる。CBSは同社が保有するCBS局の再送信に対しては今後,1世帯につき,月50セント料金を求めると言っている他,多くの地上波放送局がケーブルTV事業者にも支払いを求めていく意志を明らかにしており,HD番組の増加と共に,この争いは激しくなっていく。
