FCCのマーチン会長は2009年2月のアナログ停波後にケーブルTV事業者に対して,デジタル地上波をそのまま再送信するだけでなく,アナログにも変換し,再送信させる事を義務化する規制を通そうとしている。デジタルでしか放送をしない事業者には,この規制は関わらないが,アナログサービスを続ける事業者にはデジタルとアナログ両方での再送信義務が起きる事になる。もし,デジタル放送をケーブルTV事業者がアナログ変換し,再送信する事を許可し,これには再送信義務を課さないと,ケーブルTV事業者は視聴率の高いチャンネルだけをアナログ再送信し,独立系のローカル局等はアナログでは放送しない事が可能なる。
2009年までにケーブルTV事業者が完全にデジタル移行を完了させ,すべてのケーブルTV視聴世帯のテレビにデジタルSTBを付けることは不可能である。もしも,ケーブルTV事業者が地デジをアナログ変換し,再送信しなければ,2009年2月以降,何千万のテレビが地上波放送を視聴出来なくなる。現在の規制では,ケーブルTV事業者は地上波をそのまま再送信しなければならないため,アナログ停波の後,デジタル地上波をアナログ変換し,再送信する事は出来ない。FCCはケーブル事業者に対して地デジをアナログ変換し,再送信する事を許可する代わりに,これにも再送信義務を付けることを求めている。
ケーブルTV事業者は,デジタルとアナログの両方での再送信に関しては,帯域を使いすぎるとして反対している。しかし,ケーブルTV事業者の中から,このアナログ変換の再送信を促進する事で,地上波局に対する圧力を増し,再送信料金の支払いから逃れる案が浮上している。この提案をしているのは中小ケーブルTV事業者の団体のNational Cable Television Cooperativeの会長で,Massillon Cable社長のボブ・ゲッセナーである。
CEAは2009年2月の時点で,約2200万から2500の世帯が地上波再送信のみを受信しており,これら世帯の約3700万台のTVが地上波TVを受信出来なくなるとしている。しかし,このTVの設置台数は,地上波のみ受信の世帯のテレビで,ケーブルTV,あるいはDBSに加入しているが,サービスには接続されていないTVは含まれていない。NSIリサーチの調査では2008年末で,アナログ地上波を直接に受信し,DTVコンバーター無しでは視聴不可能になるTVは6000万台になる。さらに,アナログケーブルTVに接続され,もしも,アナログケーブルでの地上波再送信が終わると,地上波の受信が出来なくなるテレビも加えると,1.2億台のテレビが影響を受ける事になる。もし,1.2億台のTVで地上波放送が視聴不可能になれば,広告価値は減少し,地上波局は大きな打撃を受けることになる。
米国政府はDTVコンバーターの購入援助($40のクーポン)に15億ドルの予算を付けているが,この予算では3750万台のテレビしか救うことは出来ない。ゲッセナーのS.O.S.(Save Our Sets)は,DTVコンバーターでは無く,アナログケーブルを使い,これらTVでの地上波受信を可能にしていく提案である。S.O.S.の計画では,$40のクーポンを得た視聴者は,DTVを購入するのではなく,クーポンをその地域のケーブルTV事業者に持っていく。ケーブルTV事業者は,クーポンと交換にその世帯に対して,7年間無料で,地上波再送信を提供する。無料で地上波再送信を提供する条件として,地上波局は7年間無料で,地上波再送信権をケーブルTV事業者に提供する。ケーブルTV事業者は$40のクーポンを政府に返却し,政府はこれを再利用出来る。
ケーブルTV事業者は政府から援助を受けずに,無料で地上波再送信を提供するのは,一見,大きな損の様に見える。しかし,対象は現在ケーブルTVに加入していない世帯のみである。さらに,もし,これら世帯が地上波再送信だけでなく,ケーブルTVチャンネルも見たいと思えば,通常のサービスに加入する事になり,顧客ベースの拡大になる。それ以上に,7年間は地上波局に再送信料金を支払わないで良いことで,この問題がいかにケーブルTV事業者を悩ませているかが分かる。
このS.O.S.が成功するには政府が,これを規制化する必要があり,現実性は低いであろう。特に,この計画を推しているのは中小ケーブル事業者代表のNCTCであり,Comcast,Time Warner等の大手を代表しているNCTAではなく,ロビー力も低い。しかし,地上波局がHDを人質に再送信料金を請求するのに対して,ケーブルTV事業者はアナログ停波の後の再送信を交渉の材料に使って可能性をこの案は示している。アナログ停波後の地上波再送信の問題は,再送信料金の論争も巻き込もうとしており,ますますと複雑化していく。FCCは9月11日の会議で,アナログ・デジタルの再送信をどうするかの決議を行う予定である。
