マーチン会長対ケーブルTV業界
FCCのマーチン会長はケーブルTV事業者の勢力を気にして,ケーブルTV業界に対して厳しい姿勢を示してきた。最近ではケーブルTV業界に対してSTBからCASの切り離し,それにデジタル移行後のアナログとデジタルによる2重の再送信を求めている。現在,ケーブルTV業界に対する規制として議論されている物は下記を含む。
- 一事業者が保有出来る加入世帯の上限の改正
- 放送局がリースした帯域も含む,副チャンネルに対する再送信義務
- どのチャンネルをベーシックなパッケージで放送するかに対する規制
- ケーブルTV事業者がチャンネルをリースする際の価格の値下げ
- STBの規格からOCAPを切り離す
これらのケーブルTVに対する規制を行いやすくするためにマーチン会長は11月に70/70ルール適用すると発表し,業界にショックを与えた。最初のショックは70/70ルール自体である。これは1984年に作られたケーブルTV法にある条項で,ケーブルTV業界が市場を独占する事を困難とする為に,もしも,36チャンネル以上のケーブルTVサービスを受けることが出来る世帯がTV世帯の70%を越え,さらにケーブルTV加入世帯がケーブルTV視聴可能世帯の70%を越えた時点で,FCCがケーブルTV産業にさらなる規制をする権限を与える物である。ケーブルTV業界の人でもこの20年以上の昔の条項は忘れており,それ以外では全く知らなかった人も多い。
もう1つのショックはケーブルTVのシェアが70%に達し,70/70ルールの範囲を越えたと言う事である。ケーブルTVの加入者はDBSに奪われ,加入者が減少し,ケーブルTV業界の株価が落ちている中,これは信じがたい事である。
FCCはどの様にケーブルTV業界の統計を得ているのか? 加入世帯数が2万世帯以上の事業者はFCCに毎年の報告をする義務があるが,2万世帯以下の事業者にはこの義務は無い。また,FCC自体もその報告書ではこの数値は使っていなく,通常は民間調査会社の発表した統計を使っている。今回,Warren Communicationsが発表した統計ではケーブルTV加入世帯のケーブルTV視聴可能世帯におけるシェアは71%となっており,マーチン会長はこの数字を使い11月28日のFCC会議でケーブルTV業界が70/70ルールを越えた事を認めようとさせた。
当然の事,この発表に対してケーブルTV事業者は反論をした。また,議会でもこれ以上の権限をFCCに与える事を懸念する声も多くある。また,ケーブルTV業界への規制を求める側でも,信憑性が疑われる数値を使う事に対する反対が出た。この統計を発表したWarren Communicationsも統計は全ケーブルTV事業者から得た物ではなく,絶対的な数字では無いとしている。他の調査会社の統計ではケーブルTVのシェアは70%を下回っている。
FCCに放送業界の統計を提供している会社としてはWarrenの他にNielsenとKagenがある。ケーブルTV加入世帯数ではNielsenが最も多く,2005年で6920万世帯となっている。逆に,Warrenが最も低く6310万世帯となっている。2005年のTV世帯数は1.1億であり,ケーブルTVのシェアはNielsenが62.9%,Kagenが59.5%,Warrenが57.4%となっている。しかし,70/70ルールの分母はTV世帯数ではなく,ケーブルTVを視聴可能な世帯(Home Passed)である。何世帯がケーブルTV視聴可能であるかは,調査会社により大きくと異なる。Warrenは最も少なく9310万世帯,Kagenが最も多く1.23億世帯である。なぜこのような差があるかというと,ケーブルTV視聴可能世帯の定義がはっきりしていないからである。ケーブルTVの回線が家庭から何メートル先まで来ていれば,視聴可能となるか? ケーブルTV事業者が接続する距離には決まりは無く,接続出来るかはその状態でも違うであろう。また,TVを持っていない世帯,あるいは空き家も計算に入れるか,否かで大きな違いが出る。空き家も計算すれば,Kagenの様にTV世帯を上回る数値もあり得る。逆にケーブルTV視聴可能世帯の定義を厳密にすれば,その数は少なくなる。2006年にAT&T(当時SBC)はケーブルTV視聴可能世帯数は8450万で,ケーブルTV視聴可能世帯に於けるシェアは77%を越えており,70/70ルールの対象になるとの見解を発表した。
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各調査会社のケーブルTV加入者数(2005年) |
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調査会社 |
加入世帯数 |
ケーブルTV視聴可能世帯数 |
TV世帯数 |
TV世帯に於けるシェア |
ケーブルTV視聴可能世帯に於けるシェア |
| Warren |
63,100,000 |
93,100,000 |
1,102,000,000 |
57.4% |
67.8% |
| Nielsen |
69,200,000 |
110,100,000 |
1,102,000,000 |
62.9% |
62.7% |
| Kagen |
65,400,000 |
123,000,000 |
1,102,000,000 |
59.5% |
53.1% |
28日,マーチン会長はFCC会議の開催を12時間遅れの午後9時として,何とか他の委員の賛成を得ようとしたが,結局は成功をしなかった。委員会はマーチン会長を支持せず,70%を越えた事を認めなかったが,マーチン会長はケーブルTV事業者全体に対して60日間以内にその加入者数とケーブルTV視聴可能世帯数を報告する事を命じる事は出来たた。しかし,加入者2万世帯のケーブルTV事業者はFCCに数値を報告する義務はこれまでなく,新たに義務化すように規制を変えるのであれば,その為の順序,手続きがあり,急に命令をする事は出来ないと反論している。さらに議会ではこの70/70ルールを無効にする法案も検討されており,マーチン会長がこの条項を使い,さらなるケーブルTVへの規制を加えることは困難になっている。
しかし,28日の会議ではマーチン会長はケーブルTVのチャンネルのリース価格の値下げを実行させることには成功した。1984年のケーブルTV法ではケーブルTV事業者に対して,チャンネルをリースする事を希望する会社がある場合,そのチャンネル容量の最大15%までをリースしなければいけない事を決め,その後FCCはこのリース価格を決めた。今回,マーチン会長はこのリース価格を1チャンネル,1加入者あたり,月10セントと,以前の価格の75%に値下げする事を求め,28日の会議でこれは可決された。また,マーチン会長はケーブルTV事業者の保有する事が出来る加入者数を多チャンネルサービス加入世帯の30%と限定する規制に対して十分な賛成を得た物と思われる。この規制は12月18日の投票で決定される。同様の規制は2001年まであったが,最高裁はこの規制を差し止める判決を下し,それ以降ケーブルTV事業者の加入者数に対する規制は無い。Comcastは約2610万世帯の加入者を持っているが,まだ30%のシェアには達していない。しかし,Comcastは競合のAT&T,Verizonに対しては同様な規制は無く,ケーブルTV事業者だけを規制するのは不公平だとの見解を発表している。
HDの現状
HDTVの普及台数は大きくと成長している。PricewaterhouseCoopersによると普及世帯数は2006年末の1400万から2007年には2500万に達する。Horowitz AssociatesによるとデジタルケーブルTV加入世帯の内35%,DBS世帯の内の31%がHDTVを保有している。
![CropperCapture[1] CropperCapture[1]](http://www.nsirinc.com/compass/wp-content/uploads/2009/08/CropperCapture12.jpg)
ケーブルTV,DBS,IPTV事業者はHD放送をめぐり,熾烈な争いを始めている。最初は提供するHDチャンネルの数が争いの中心であった。HD放送を増やすために新たに4つの衛星の打ち上げを行っているDirecTVは積極的にそのHD放送に於ける優位性を宣伝し始めた。2006年末にDirecTVはNFL Networkで放送される一部のアメリカン・フットボールの試合はDirecTVではHDで視聴出来るが,ケーブルTVでは出来ない事をそのTV広告で宣伝した。ケーブルTV事業者は黙っていない。Time Warner Cableは,そのニューヨーク市のシステムではNFL NetworkはHDで放送されているとして,DirecTVを偽りの広告をしていると訴えた。DirecTVは次に,同社の方がケーブルTVよりHDチャンネルの数が多い事を訴えるTV広告を流し始めた。Time Warner Cableはまたも訴訟を起こし,これを差し止め,Comcastは逆に(VODを加えると)同社の方がDirecTVより多くのHD番組を提供している事を誇張する広告キャンペーンに出た。
視聴者に取ってはHDチャンネルの数も大切だが,それ以上にそのコンテンツが重要である。EchoStarはケーブルTV事業者のCablevisionの子会社が始めたHD専用のDBSサービスのVoomを買収した事で,多くのHDチャンネルを持っているが,ポピュラーな番組が少なく,人気は低い。
また,画質も重要である。多チャンネルサービス経由でHD番組視聴者の一部は,地上波で直接に受信したHDチャンネルより,多チャンネル放送のHDチャンネルの画質が劣っている事に気がつき始めた。これは,多チャンネルサービスの殆どはHDチャンネルを再圧縮しているからである。光ファイバーでそのサービスを提供しているVerizonは,同社はネットワークが提供したままので,再圧縮はしていないことをその広告で訴えているが,ケーブルTV,DBS事業者は使える帯域に限りがあり,圧縮率を高めずにHDチャンネルを増やしていくことは出来ない。DirecTVは十分な数の衛星が準備出来る前に,HDチャンネル数を増やすことに急ぎ,大きな圧縮をした結果,集団訴訟の対象になってしまい,DBSのHD画質は悪いと言う評判になってしまった。2007年10月にはケーブルTV事業者のCoxはDirecTVのHD画質はケーブルTVに劣るとの広告を行い,今回はDirecTVがCoxを訴えている。
実際にどの程度の圧縮が行われているのか? HD放送は地上波放送では,MPEG-2で18~19 Mbps程度に圧縮をされている。多チャンネル向けネットワークではそれ以上の圧縮を通常している。これらネットワークは衛星で番組を全米のケーブルTV,DBS,IPTVのヘッドエンドに送っている。衛星のトランスポンダーの容量には限りがあり,また,高価であり,MPEG-2で16~18 Mbps程度に圧縮されている。MPEG-4での配信も始まっているが,その場合は8~12 Mbps程度に圧縮されている。
これを多チャンネル事業者は受信し,再圧縮をかけ家庭に送っている。どの程度の圧縮をしているかは公開されていない。その番組の種類,また,ネットワークとの交渉で許可される範囲による。ケーブルTVでは1つのアナログチャンネル(6 MHz)で2つのデジタルHDチャンネルを18~19 Mbps(MPEG-2)で放送する事が出来る。実際には6 MHz帯域で3つ,あるいは4つのHDチャンネルを送ってるので10 Mbps~14 Mbps程度まで圧縮されている事になる。
DirecTV,EchoStarは共にHDではMPEG-4を使っている。MPEG-4で6~10 Mbpsで放送されているが,番組によっては6 Mbps以下もある様だ。
どこまで圧縮出来るかと言う規定はない。デジタル環境に於ける地上波再送信規制に対して放送局はケーブルTV事業者に対して再圧縮を許さず,そのままの状態で再送信する事を規制化する事を求めたが,FCCはこの意見を採用しなかった。
ケーブルTVの加入者は減少,DBSの加入者は増える
Comcastが6.5万世帯の加入者を失った事を発表したのに続き,Time Warner Cableは8.3万,Cablevisionは1.6万,Charterは4万の加入者を前四半期に失った事を発表した。これに対して,DirecTV,EchoStarの加入世帯数は上昇した。特にDirecTVは好調で,第3四半期にその加入世帯数を24万も増やし,総加入者数を1656万世帯とした。EchoStarの加入者数の上昇は11万で,総加入者数を1370万に増やした。
ケーブルTVの加入者の減少,DBSの増加の大きな理由にケーブルTV事業者のデジタルサービスへの移行がある。DBS,そしてIPTVとの競合上,ケーブルTV事業者はそのチャンネル数,特にHDチャンネルを増やそうとしている。しかし,帯域には限度があり,デジタルチャンネルを増やすためにはアナログチャンネルを減らす事になる。1つのアナログチャンネルで,3つ,あるいは4つのHDチャンネルを提供出来る。デジタルサービスを充実させる為にアナログチャンネルを減らすことは,アナログサービス加入者の不満となる。ケーブルTV事業者はアナログ加入者にデジタルサービスに切り替えることを進め,デジタルSTBの無料提供,割引等をオファーしている。しかし,アナログ加入者に取って,料金は上る事になる。もし,アナログからデジタルへの切り替えを考慮する場合,DBS等の他のオプションも考慮する事は当然であり,その際,この問題を提供するきっかけとなったなったケーブルTV事業者を切りたくなるのも不思議ではない。
700 MHz帯域の競売関連のニュース
- 端末,アプリケーションのオープン化が義務化されている22 MHz帯幅があるCバンドを狙うVerizonはそのネットワークをオープン化する事を発表した。Verizonは2008年初旬に同社ネットワークにアクセスする為の仕様を公開する。これに対して,AT&Tは同社のネットワークはすでにオープンであり,SIMカードを取り替えるだけで,GSM仕様の電話が自由に使えると発表している。
- Cバンドをオープン化を求めた張本人のGoogleは11月30日に700 MHz帯域の競売に参加する事を正式に発表した。700 MHzオークションに参加する企業は12月3日までにFCCに登録をしなければならない。そのリストは12月中旬に発表される。
- ケーブルTV事業者のComcast,Time Warner Cable,Charterは700 MHz競売には参加しないことを発表した。しかし,昨年のAWS競売で,Comcast,TWCと共に参加したCoxは700 MHzにも参加する事を発表している。また,Cablevisionも700 MHz競売に参加する申請をFCCに対して行っている。
EchoStarがDish Networkに社名変更
9月に会社をDBSサービスとインフラストラクチャー事業の2つに分けることを発表したEchoStarは,SECに対してそのDBSサービスを行う会社をDish Networkとする登録を行った。同社の衛星設備,STB事業等はEchoStarの名前を引き継ぐ会社が運営する事になる。同社が買収したSlingはこのEchoStar社の一部になる。
AT&TがU-verseの予算をアップ
AT&Tは2008年末までにU-verseの構築に投資する予算を5億ドル増やし,50億ドルとした。この理由として,AT&Tは買収したBellSouthの営業地域にもU-verseを拡げるためと発表している。しかし,同時に2008年末でU-verseがカバーする世帯数は1800万世帯から1700万世帯に減少した。今年の5月に,AT&Tは2008年末の世帯数を1900万から1800万に減少させたばかりである。AT&TはU-verseは9月末時点で,約550万世帯がサービスを受けられ,その約40%にあたる12.6万世帯がサービスに加入していると発表している。2004年の発表(当時はSBC)では2007年末のサービス対象世帯数は1800万であった。
MovieBeamが(また)閉鎖
復活したMovieBeamの宿命は,結局最初と同じであった。地上波放送のデータキャストを使い,HDDを搭載した専用STBに映画を蓄積する疑似VODサービスのMovieBeamは最初,Disney子会社のBuena Vistaが2003年に立ち上げた。サービスは3都市で提供されたが,STBの月額レンタル料金$7ドル,プラス,ビデオ1本あたり,$3~$4ドルのサービスは普及せず,2005年に閉鎖された。2006年にMovieBeamはDisneyからスピンオフされ,Intel,Cisco等の会社の投資により復活した。ビジネスモデルは若干変わり,STBはレンタルではなく,$200ドルの買い取りになった。また,HD画質で映画を提供する事も売り物としたが,他の用途には使えないSTBを購入し,さらに,VOD料金を払うビジネスモデルはまたも成功する事は出来なかった。MovieBeamはそのサービスを2007年12月15日で閉鎖する事を発表した。
IPGの利用
IPG/EPG事業者のGemstar-TV GuideとComcastの広告部門のComcast SpotlightはIPGに利用動向の調査結果を発表した。この調査は調査会社のLieberman Researchに依頼し,1612人のIGuideの利用者を対象に行った物で,75%はTVを見始める場合,まずIPGにアクセスしており,80%はIPGを欠かせないと返答した。また,65%は番組を見ている間にIPGをアクセスし,他のチャンネルで何をしているか確認し,25%はCM中にIPGにアクセスすると答えた。IPGには広告価値もあり,50%は最低で1週間に1回はIPGの広告に気が付き,40%は広告にあったVOD,他のイベントを記憶していると答えた。Gemstar-TV Guideは前回に調査を行った5年目前より,IPGの利用は20%から30%から増えていると発表した。IGuideはGemstar-TV GuideとComcastのジョイントベンチャー,GuideWorksが提供するIPGで,ケーブルTV1700万世帯で採用されている(内,Comcastは900万世帯)。
YouTubeのシェアは27.3%
多数のインターネットビデオ・サービスが登場しているが,YouTubeは依然としてトップの座にある。ComScore Video Matrixによると27.6%のシェアがある。2位はMyspace.comを持つFox Interactive Mediaだが,そのシェアは4.2%で,YouTubeとは大きな差がある。3位以下はYahoo(4.1%,Viacom Digital(3.3%),Time Warner Network(2.2%),Microsoft(2.1%),Disney Online(1%),ESPN(1%),Comcast(0.6%),CBS(0.5%)となっている。ComScoreによると米国のオンラインビデオの視聴者数は1.36億で,インターネット利用者の4分3がインターネットビデオを視聴している。
ブロードバンド加入者の増加率が減る
Leichtman Research Group(LRG)社の発表した統計によるとブロードバンド市場の94%を構成するトップ19事業者の第3四半期の合計加入者増加数は210万世帯で,昨年同期の266万世帯から20%ダウンした。19事業者の合計加入者数は6010万で,その内訳はケーブルTV事業者が3260万,電話事業者が2750万であった。第3四半期の増加数の半分はケーブルTV事業者,半分が電話事業者で,これまで成長が鈍り,加入者増加数では電話事業者に負けていた,ケーブルTV事業者が回復を見せた。LRGの統計ではケーブルTV事業者のブロードバンド回線の87%は2.5 Mbps以上であったのに対して,2.5 Mbps以上のDSL回線は39%でしかなかった。