Venu Sports設立の背景
Disney、Warner Brothers Discovery、Foxの3社は2024年2月にジョイント・ベンチャーのVenu Sportsを設立した。Venu Sportsはスポーツ専門のストリーミング・サービスで3社が地上波と多チャンネル向けネットワークで放送している試合中継、それにスポーツニュース等の関連番組を配信する。vMVPDのようだが、チャンネル単位での再配信では無いので、スポーツ以外の地上波の番組等は配信されない。また、3社以外のNBCUniversal、あるいはParamount Global系のネットワークで放送される試合は含まれない。Venu Sportsは$42.99で2024年秋に開始の予定であった。
Venu Sportsが必要になった理由はコードカッティングである。地上波放送も多チャンネルでの再送信で見ている世帯が多いので、コードカッティングにより放送視聴者が減っている。スポーツ放送のリーダーであるDisneyのESPNのプライムタイムの視聴者数も2024年で2%減り、ESPN2は11%も減っている。ドラマ等はDisney+、Max等のSVODサービスで、多チャンネルサービスのバイパスが行われているが、スポーツはまだ放送が主体で、ストリーミングではない。
しかし、それはスポーツファンがストリーミングを嫌っているからではない。Amazon、それにNetflixはストリーミングだけのスポーツ試合の配信で、放送と同等の加入者数を出している。ストリーミングでは視聴者年齢も若く、リーグ、それにスポンサーはストリーミングへの移行を望んでいる。問題はネットワークがいかにスポーツを多チャンネルサービスからストリーミングに移行させるかである。
ESPNを持っているDisneyの問題が最も大きい。ESPNが多チャンネルサービス事業者から得ている再送信料は1加入者あたり、月$10以上で、ベーシックサービスのチャンネルとしてはもっとも高価である。再送信料はESPNを見ているかとは無関係で、ベーシックサービス加入者全員が対象になるので、ストリーミングで提供する場合の料金は$10以上になる。ESPN2、ESPN+等も加えたストリーミングサービスの価格は$25程度になるであろう。高価で過ぎて、Disney+のオプションとして加えることは出来ない。単独のスポーツサービスとしては高価過ぎるが、他のネットワークの試合も加え、$40程度で提供出来ればスポーツファンには魅力的なサービスになる可能性があり、それがVenu Sportsである。
Disneyが手を組む相手として、Paramount GlobalとNBCUniversal(NBCU)は対象外である。Paramount GlobalはParamount+、NBCUはPeacockにスポーツを加えており、スポーツを別途に提供する必要はない。Warner Brothers Discovery(WBD)はBleacher Report Liveとしてスポーツ専門のストリーミングサービスを提供したが、コンテンツが不十分で失敗した。Maxの有料オプションでスポーツを加える予定であったが、これも延期になっている。Venu Sportsに参加するのはいいオプションである。FoxはWBDと同様に独立したサービスを提供するほどのスポーツ権利はもっていない。FX等の多チャンネルネットワークをDisneyに売ったために、Paramount、NBCUのようにスポーツを加えるSVODサービスが無い。Tubiを持っているが、無料サービスに高価なスポーツコンテンツを加えたのでは収益を出せなく、自社だけでスポーツをストリーミング化するオプションがない。
Fubo TVの訴訟と和解
多チャンネルサービス加入者の多くはスポーツのために加入しており、Venu Sportsは加入者を奪う。特にvMVPDへの影響は大きい。vMVPDは加入と脱退が簡単であり、シーズンオフにキャンセルをすることが出来る。中でも、Fubo TVはスポーツを重視しており、Venu Sportsは大きな競合になる。Fubo TVはVenu Sportsは独占禁止法違反だとし、Venu Sportsを提訴し、判決が出るまでの間のサービスを差止めることを法定に求めた。裁判所はVenu Sportsは独占禁止法に触れている可能性が高いとし、これを支持した。コンテンツ事業者が共同でディストリビューション事業を行うことは独占禁止法に触れるとの前例がある。1980年にColumbia、MCA、20th Century Fox、それにParamountはGetty Oilと共同でHBOに対抗する映画専門チャンネルのPremiereを立ち上げたが、司法省はこれを反トラスト法違反として訴え、ジョイント・ベンチャーは解散になっている。
Fubo TVの訴訟はDish NetworkとDirecTVも支持をした。どちらもvMVPDサービスを持っている。また、ケーブルTV事業者とは違い、Venu Sportsをブロードバンド加入者に販売し、収入を得る方法もない。さらに、司法省、それに16の州もFubo TVの訴訟を支持した。裁判開始は今年の秋であり、Venu Sportsの来年開始の可能性もほぼ消滅した。
Disney、WBD、Foxの3社は$2.2億をFubo TVに支払うことで和解し、訴訟を取り下げさせた。さらにDisneyはvMVPDサービスのHulu with Live TVをFuboと合併させ、新会社の70%を持つ。新会社はFuboの社名のままで上場を続け、Fuboの既存の経営陣が引き続き運営する。2つのサービスの統合は12ヶ月から18ヶ月後になり、それまではFuboはFubo TVとHulu with Live TVの2つを提供する。Hulu自体は含まれない。Disneyはさらに、2026年に$1.45億の貸付金を提供する。合併により、Fuboの加入者は161万人から621万人(2024年3Q)に増える。
Venu Sportsの解散
和解により、すぐにでもVenu Sportsをローンチすることが可能になったように見えたが、その翌週に3社はVenu Sportsの解散を発表した。Fuboとは和解したが、訴訟を支持していたDirecTVとDish Networkは裁判所に対して両者が和解してもVenu Sportsが独占禁止法に触れていることには変わりなく、サービス開始に対する差止めの継続を求めたこと、さらに司法省も調べを続けており、3社はVenu Sportsをスタートさせることは不可能と判断したと推測されている。DisneyはVenu Sportsの目的はESPNをアンバンドルした、スキニーなパッケージを可能にすることで達成出来ると語っている。しかし、Disney、WBD、Foxの経営者たちがFuboと和解するまで、これらのことに気づかなかったほど無能だとは考えられない。Venu Sportsを解散するのであれば、Fuboに和解金を支払う必要な無い。和解したのには理由があるはずだ。
和解によりFuboが大儲けをしただけに見えるが、Disneyにもメリットがある。Disneyに取り、SVODサービスのHuluは重要だが、vMVPDのHulu with Live TVはお荷物である。HuluがvMVPDを始めたのはDisney、Fox、Comcast、WBDのJVの時点であり、Disneyの意向ではない。DisneyはvMVPD事業には興味なく、Hulu with Live TVを手放すことを考えていた。Fuboと合併させることで、別会社にし、帳簿から消すことが出来る。
Fuboと和解したのは、Venu Sportsに変わるサービスをFuboに立ち上げさせる考えだとの憶測もある。3社がJVとしてVenu Sportsを立ち上げることは独占禁止法に触れる可能性が高いが、Fuboが同等のサービスを提供するのであれば、その問題は大きくと減る。3社のスポーツコンテンツを優先的にFuboに提供するはことは出来ない。再配信契約として他社も同様な条件を要求することが出来る。しかし、Fuboにスポーツコンテンツを提供することが和解の条件であれば、他社は同じ条件を要求することは出来ない。DisneyはFubo TVにVenu Sportsに変わるサービスを開始させることが和解の本当の目的かも知れない。
