地上波局はデジタル移行後の新サービス(新収入源)としてマルチキャストに強い関心を示していた。圧縮技術等の進歩で、デジタル放送容量の19.4 Mbpsで1つのHD番組に加え、2、3のSD画質の番組を同時放送する事が可能になる。しかし、TV視聴世帯の80%以上が地上波放送を多チャンネルの再送信で視聴しているアメリカでは、マルチキャストを行っても、多チャンネル事業者が再送信をしてくれない限り、視聴者数は限られてしまう。放送局はFCCに対して、マルチキャストも再送信義務規制の対象にするように求めたが、FCCはこれを拒否したことでマルチキャストに対する関心は冷めていった。しかし、マルチキャストへの関心が再燃を始めている。
その1つの動きはMGMによるマルチキャスト向けの新ネットワーク「This TV」の設立である。This TVはMGMの持つ4100以上の映画、1万時間以上のTV番組の資産を使い、24時間の放送を行う。放送は24時間であるが、This TVと契約した地上波局は、独自のニュース、天気予報、あるいは地元スポーツ中継を加える自由がある。This TVは映画主体でスタートするが、MGMの持つ昔のTV番組の再放送も行う。放送局グループのWeigel Broadcastingが最初の提携局となり、そのシカゴ、ミルワーキー、サウスベンド(インディアナ)の放送局で、この秋からThis TVの放送を開始する。
また、Media Access Project(MAP)はFCCに対して、新たな「Sクラス」と呼ばれる放送局の種類を作ることを提案している。Sクラスは独自の放送設備を持たず、マルチキャストを使って放送する公共局であるが、通常の放送局と同様に、多チャンネル事業者に対する再送信権利を持つ。Sクラスの局は地域団体、マイノリティー団体等が地元放送局からマルチキャストの帯域を借りて設立する。基本的には公共局であるが、50%未満であれば、営利放送も出来る。マルチキャスト帯域の貸し出しは24時間の必要は無く、地上波放送局はHD放送を行っていない時間帯に限った貸し出しも可能になっている。以前、FCCのマーチン会長もマルチキャストを使った公共局の設立を提案したが、MAPの案はこれにさらに現実性を加えた物になっている。ケーブルTV事業者には公共団体に対してパブリックアクセス向けのチャンネルを提供する義務があり、これを使って全米で700以上のパブリック・アクセス局が活動をしている。このSクラス局はこれを拡大する事になる。当然、多チャンネル事業者は反対をするであろうが、デジタル放送の空き容量を公共局に使わせると言うアイデア自体は良い物であり、議論は続くであろう。
