アンテナ視聴は増えるか?

アメリカのテレビ放送市場の大きな特徴は多チャンネルサービスが普及しており、地上波も多チャンネルサービスで再送信され、アンテナでの視聴が少ない事である。これには歴史的な背景がある。テレビ放送の開始時、放送局開設の申請が殺到し、放送局認可が一時ストップした。これを埋めたのがケーブルTVで、放送局のない地域に隣接地域からの放送を「輸入」した。放送局が開設された後でも、国土が広いアメリカでは電波が届かない地域も多く、放送の普及にはケーブルTVは不可欠であった。

その後、地上波の再送信だけでなく、HBO、ESPN等のケーブルTV専門のネットワークも誕生し、多チャンネルサービスに加入するテレビ世帯は増加を続け2009年に88%に達し、アンテナでのテレビ視聴者は少数派になる。ここ数年、多チャンネルサービスの加入率は減ってきたが、地上波アンテナ世帯は増えなかった。テレビを見るには多チャンネルサービスが当たり前であり、アンテナでテレビが見られると言う事を知らない人も少なくない。

しかし、ここ1年間で地上波アンテナ世帯が増えている。Nielsenによると、地上波だけ、あるいは地上波とブロードバンドの組み合わせでテレビを見ている世帯は2016年第2四半期の13.6%から2017年第1四半期には15.2%に増えている。地上波放送局にとっては嬉しい事である。特に、ATSC 3.0への移行を予定している局には追い風になっている。地上波でテレビを見ることを思いつかないのであれば、ATSC 3.0の成功の可能性は疑わしい。アンテナでの視聴が増えており、さらにアンテナとブロードバンドの組み合わせが増えている事は、IPとの親和性が高いATSC 3.0の魅力を高めるはずである。


Nielsen

だが、アンテナ視聴の増加は一時的だとの意見もある。テレビをブロードバンドで見る人達は増えているが、まだすべての番組がOTTで配信されている訳ではない。OTTベースの多チャンネルサービスに加入しても、ケーブルTVの様に全地上波チャンネルが見られる訳ではない。4大ネットワークでさえ、OTT多チャンネルサービスでは見られない地域が多く、ブロードバンドだけでテレビ番組をすべて見る事は不可能であり、アンテナの併用が必要になる。この状況がいつまでも続く訳ではない。OTT多チャンネルサービスでの地上波再送信は急速に進み始めている。特に、Hulu with Live TVでは1つのプラットフォーム内でライブ放送とオンデマンドの両方が可能であり、アンテナ+ブロードバンドより便利な環境を提供しており、この様なサービが普及すれば、アンテナ併用は不要になる。

今後、アンテナ+ブロードバンドが増える為にはその2つを統合するプラットフォームが必要になる。Dish Networkのストリーミング・プレーヤのAir TVは地上波チューナを持ち、Sling TVのUIから地上波で放送されている番組を探し、チャンネル切り替えが出来る。しかし、すべての地上波放送のメタデータがある訳ではなく、まったく情報の無い番組もある、また、地上波放送はライブで見る事は出来るが、クラウドDVRには録画出来ない。ATSC 3.0のアプリが地上波放送と多様なOTTサービスを統合する事が出来れば良いが、そうではないとHulu等の放送とOTTを融合させるサービスの便利さが勝つであろう。