Netflixの変身

Netflixは1977年に郵便を使ったDVDレンタル会社としてスタートをした。その時点でのNetflixの競合はBlockbuster等のDVDレンタルチェーンであった。NetflixはDVDのレンタル事業者として、店舗を持たずに、郵便でDVDを配送する以外にNetlixには2つの大きな特徴があった。

一つは、サービスを定額制で提供する事だ。それまでレンタル事業の1枚、一泊いくらの料金とは違い、Netflixは同時に受け取る事が出来る枚数を1枚から3枚に限定し、月額を一定にしたサービスを1999年に開始した。1枚での月額は$10であったので、週に1本を見るペースであれば、4本を見る事が出来た。到着した日にすぐに見て、翌日送り返すハイペースであれば、月に6以上を見る事が出来た。

2つ目の特徴は、利用者に見たい映画をキューに置いてもらい、その中から発送可能なDVDを送る方法である。キューは利用者がウェブで管理し、優先順序を変えていく必要がある。Netflixとしては多くのDVDを購入する必要がなくなるが、利用者としてはヒット映画を素早くDVDで見たいのであれば、リリースのかなり前からキューに入れておく必要がある。

この2つの特徴は利用者の不満を高める可能性がある。定額制である事は、常に見たい映画が存在する必要がある。見たい映画が月に1本しか無けれなば、Netflixは高価である。また、スムーズな発送の為にはキューに多くのDVDが置いてある必要がある。言い換えれば、利用者が見たい映画を思い浮かべる事が出来なければ、Netflixのサービスは持続しない。送られてきたDVDが面白くなければ、利用者は脱退していく。

発送方法は郵便であったが、NetflixのコアはITであり、ウェブサイトが重要であった。加入者が定期的にNetflixのウェブサイトに行き、見たい映画をキューに入れ、キューの優先順位を管理していないと持続をしない。その為にNetflixが使ったのはソーシャルとレコメンデーション技術である。利用者の映画の評価だけで無く、Netflixはソーシャル機能を提供して、利用者が高く評価したと同じ映画を見た人が見て、高く評価して映画のリスト等も提供した。しかし、DVDレンタル事業者は利用者が借りた映画リストを一切公開してはいけないとの規制があり、この機能は排除されたが、Netflixはソーシャル・ネットワークのパイオニアであったと言える。

しかし、Netflixを成功させたのはレコメンデーション・エンジンである。レコメンデーションが良くなければ、キューの入れる見たいDVDは増えない。また、そのレコメンデーションが的確でなければ、送られてきたDVDに満足をしない。キューに入れるDVDが少なく、それが満足する物でなければ、月額を払っている理由は無い。Netflixはレコメンデーションに力を入れ、アイデアを公募し、良いアイデアに賞金を出していた。

Netflixの事業は成功をしたが、利用者の不満もあった。それは、郵送時間である。DVDを送り返し、次のDVDが来るまでに早くても3日はかかる。特に週末に次のDVDが来なければ、不満は多い。この問題の解決の為にNetflixは2007年にインターンネットでのストリーミング配信を始めた。しかし、インターンネットで配信可能なコンテンツは限られていた。映画、特に新しい映画は高価であり、定額制のサービスには不向きである。Netflixは、過去のテレビ番組に目を付けた。新作映画が少ない事で、ストリーミングサービスの成功を疑う意見もあったが、テレビ番組はNetflixのストリーミングサービスをポピュラーにした。特に、加入者以外では見る事が出来なかったStarz等の有料チャンネルのドラマが人気になった。良いドラマを制作していたが、知名度が低かったAMCのオリジナルドラマはNetflixが配信した事で話題になり、AMCチャンネル自体の視聴率向上につながった。
Netflixは2011年にDVDレンタルサービスとストリーミングサービスを別にした。その理由はコンテンツの提供方法が異なるだけでなく、ビジネス自体が基本的に違ってきた為である。DVDの郵送レンタルの事業は、DVDレンタル店舗、Redboxの様な自販機レンタル、そして、ケーブルTV、あるいはiTuneの様なVODサービスが競合になる。これに対して、ストリーミングサービスの方は、最新映画は少なく、主体はテレビドラマと古めな映画であり、競合は有料チャンネルのHBO、Showtime、Starz等である。

サービスを2つに分けた事に対して利用者は不満を持ち、Netflixの加入者数は数ヶ月間停滞した。しかし、殆どの加入者はストリーミングを選択し、Netflixの加入者数はさらに増えていった。Netflixの2014年第2四半期のアメリカでのストリーミング加入者数は3509万人であった。
Netflixのストリーミングサービスは大きな成功をしたが、問題もある。1つは競合、特にAmazon Prime Instant Videoの登場でコンテンツの奪い合いが始まった事だ。例えば、AmazonはViacomと独占解約をし、Netflixは子供に人気のSponge Bob等のシリーズを失った。また、Netflixを競合視して来たHBOは、そのコンテンツのストリーミングでAmazonと契約した。さらに、テレビネットワークはTV Everywhereでの配信に進んでおり、将来的にNetflix等へのコンテンツの提供を減らしていく可能性もある。

Netflixは昨年からオリジナル番組の配信を始めている。これにより、Netflixのストリーミングサービスは本格的に有料チャンネルへの競合となった。HBO、Showtime等の有料チャンネルは劇場映画の放送に加え、オリジナル番組を配信しており、Netflixのストリーミングサービスと同じ事業内容である。2014年のエミー賞にはNetflixの番組が合計で31の賞にノミネートされており、そのオリジナル番組はテレビ番組として認識されている。

NetflixとHBO等との唯一の大きな違いは配信網である。HBO等の有料テレビネットワークはケーブルTV等の多チャンネルサービス事業者と契約し、その放送網を使っている。これに対して、Netflixはインターネットを使っており、利用者は視聴するのに必要なブロードバンドサービスに別途入会する必要がある。多チャンネルサービス事業者との契約無しで、オーバー・ザ・トップのサービスで開始した事でNetflixは短期で成長をする事が出来た。しかし、品質が保証出来ない事はNetflixの大きな弱点になっている。Netflixが最初にストリーミングしたビデオは、それ自体が古く、高画質ではなく、ストリーミングの画質が悪くても大きな問題ではなかった。しかし、新しいビデオはすべてHDであり、今年からNetflixのオリジナル番組は4Kになっている。画質は重要になっているが、Netflixとして品質保証は出来ない。

Netflixはブロードバンド回線は利用者が支払っており、インターネット上でサービスを提供する会社がさらに利用料を支払う必要は無いと言っている。これに対して、ブロードバンド事業者はプライムタイムのトラフィックの3分の1はNetflixが使っており、より良い画質でのサービスを求めるのであれば、その為に支払いをするべきだと反論している。Netflixは文句を言いながらも、Comcast、Verizonと接続契約を行っている。
今後、Netflixは高画質のサービスを提供していくためには、帯域が保証されている回線を使う必要があり、ブロードバンド事業者との契約は必要になっていく。その時点で、Netflixはレンタル事業者ではなくなり、全くHBO等と同じテレビネットワーク事業者への変身が完了する事になる。