Cable Show 2012

National Cable & Telecommunications Association(NCTA)主催のケーブルTV産業の大会、Cable Showがボストンで開催された。参加者数は12,000人で、昨年のニューオリンズ大会の13,000人、2010年のロサンジェルス大会の13,3000を下回り、2009年(ワシントンDC)の12,100人、2008年(ニューオリンズ)の12,100人と同等であった。2013年のCable ShowはワシントンDCで開催される。

2012年のCable Showの最大の話題はIP化である。数年前までケーブルTV事業者はIP化には無関心であった。しかし、状況は大きくと変わっている。ケーブルTV事業者がIP化に熱心になる理由には幾つかある。

1つは、オンデマンドで提供されるコンテンツの増加だ。ケーブルTV事業者はTV Everywhereとして、TV番組の見逃し視聴のサービスを提供し始めている。これはコンテンツの量を大きくと増やし、QAM上のVODでは効率良く提供する事が出来なくなっている。オンデマンドのコンテンツ配信にはIPの方が効率的である。しかし、既存のSTBはIP対応ではないので、TV Everywhereで見逃し視聴をする時は、STB(TV)は使えず、コンピュータ、タブレットを使う必要があると言う問題が出ている。これは利用者に取り、不便であり、QAMとIPの両方に対応するハイブリッドSTBの導入の必要性を増幅させている。

もう1つは、多チャンネルサービスのマルチプラットフォーム化である。数年前までは、多チャンネルサービスの対象プラットフォームはTVだけであったが、現在はスマートフォン、タブレット、ゲーム機等様々なデバイスをサポートする必要がある。多様なデバイスへの配信にはQAMは不適切である。

3つ目の理由は、DVRに録画した番組を他の部屋のTVからもアクセスする事を可能にするマルチルームDVRへのデマンドである。家庭内でのコンテンツの共有はRFでも可能だが、IPベースの方が効率的であり、また、IPを使うことで、STB以外のデバイスとの共有も可能になる。

Cable Show 2012で最もこのトレンドを表していたのが、ComcastのX1(Excalibur)である。X1はComcastの次世代アーキテクチャーであり、現在、アトランタ州のオーガスタでテストされている。ComcastはX1を使ったサービスを数週間以内にボストンで開始し、年内にはその他の主要な都市でもX1サービスを開始すると発表している。

X1には2つの大きな特徴がある。1つはPaceのDVR/ゲートウェイをベースにしたクライアント・サーバー型のアーキテクチャーである。PaceのDVRはQAM/IPのハイブリッド型であり、IPで廃止hんされている ComcastのTV Everywhere、Xfinity.TV等のインターネットビデオのコンテンツをTVで見る事を可能にするだけでなく、QAMで受けた番組をリアルタイムにトランスコードし、IPネットワークで家庭内に配信する事が出来る。X1のDVR/ゲートウェイには6つのQAMチューナが登載している。このため、クライアントデバイス側はQAMチューナを登載する必要が無く、IP機能だけですむ。ネットワークには同軸ケーブルベースのIP網、MoCAが使われている。ComcastはこのQAM/IPゲートウェイとIPベースのクライアントSTBの仕様をレファレンス・ディベロップメント・キット(RDK)としてライセンス提供を始めた。ComcastはRDKとしてライセンスする事で、この仕様を使ったデバイスが多く開発され、他の事業者もこのアーキテクチャーを採用する事を狙っている。

X1のもう1つの特徴は、クラウドベースのインタフェースである。これまでのSTBのインタフェース(EPG)はハードウェアベースであり、その機能はハードウェアに依存した。その為、グラフィカルなインタフェース、高度な検索機能は、ベーシックなSTBでは採用する事が出来ない。多チャンネル化が進み、さらにVODによりコンテンツが増えている現在、いかに視聴者に対してコンテンツを探し易くするかは多チャンネル事業者に取っての大きな課題である。グリッド型の番組表をでは、100以上のチャンネル、数千のVODコンテンツのナビゲーションは出来ない。X1では、EPGの処理はクラウド上で行われる。その為、高度な検索、ソーシャルネットワークとのインテグレーション、レコメンデーション等の機能を提供する事は困難ではない。複雑な処理はクラウドで行われ、STB自体は、ブラザーと同様にその結果を表示するだけである。また、アップグレードはクラウド側のソフトウェア更新で行えるため、EPGの更新は容易に行える。Comcastはアトランタでのテスト中に400回以上のアップグレードを行っている。STBに依存したEPGでは、アップグレードも容易ではない。

このX1 EPGの表示機能には、ケーブルTVのSTBの標準ソフトウェアプラットフォームのtru2wayが使われている。この為、X1のEPG機能は、Paceの新型STBだけでなく、既存のtru2way対応のSTBでも採用する事が出来る。Comcastはすでに700万から800万台のtru2way対応のSTBを設置しており、ComcastはこれらSTBに対してもX1のEPGを利用可能にしていく予定である。X1 EPGの操作はリモコンを使い、TV画面にキーボードを表示して行うだけでなく、スマートフォン、タブレットを使ってでの操作も出来る。

また、X1のEPGと同様なクラウド処理を使い、他のアプリケーションを提供をする事も出来る。Comcastは、Cable ShowでDayviewと呼ばれるTV上でのホーム・ダッシュボード・アプリケーションを公開した。Dayviewは、天気、ニュース、交通状況等のパーソナライズされた情報を表示するだけでなく、Eメール、アポイントメント、メッセージ等の情報を表示する事が出来る。ComcastはDayviewをX1向けに今年の末までに提供する予定。

このIP化のトレンドはComcastの発表に限った物ではない。

  • Cablevisionは、IPで再配信するTV番組だけでなく、TVと同様のEPGを表示する事の出来るスマートTV用のアプリを公開した。アプリは、SamsungとLG向けで、これを使う事でSTB無しで、ケーブルTVと同等のサービスを提供出来る。Cablevisionはすでにそのニューヨーク地区の加入者に対して、TV番組をケーブルモデムでIP再配信し、iPad、iPhone、それにコンピュータでも視聴可能にしている。このアプリの導入で、スマートTVにもサービスの提供が可能になるが、Cablevisionはまだ具体的な導入予定は無いと語っている。
  • Motorola Mobilityは、クラウドベースで番組を録画し、それをTVだけでなく、タブレット、コンピュータ等でも視聴可能にする「Whole World DVR」のコンセプトを発表した。「Whole World DVR」は、Cablevisionがすでに提供しているクラウドベースのDVRにTV Everywhereが持つ視聴ポリシー管理のコンセプトを加え、録画した番組をそのコンテンツ事業者が承諾したポリシーに応じて世界のどこでも視聴を可能にする。Motorola Mobilityは匿名のケーブルTV事業者とクラウドベースのDVRのテストを今年中に行うと語っている。
  • TiVoは、そのPremier DVRへのオプションとして、録画した番組をトランスコードし、IPベースでスマートフォン、タブレット等に番組を送る事が出来るTiVo Stream、それに4チューナを内蔵したDVRのPremiere Qのクライアントとして使う、IPベースのTiVo Previewを発表した。TiVo StreamはEchoStarのSlingと同様な製品であり、DVRに録画された番組をインターネット経由で見る事を可能にする。また、PreviewとPremiere Qを組み合わせることで、マルチルームDVR化が出来る。Premiere QはQAMで受信した番組をトランスコードし、IPで配信する事が出来るので、PreviewにはQAMチューナが無いが、放送されているケーブルTVの番組を視聴出来る。ケーブルTV事業者のRCNは、TiVo Premiere QとPreviewのセットを月額$29.99で提供する事を発表している。
  • TiVoとPaceはPaceがTiVo機能を内蔵したSTBを製造する事で契約しているが、その最初の製品として、Pace XG1を発表した。Pace XG1は、TiVo機能を持つ、6チューナのQAM/IP ハイブリッド・ゲートウェアである。
  • ArrisとNDSは、ArrisのハードウェアとNDSのミドルウェアとCAS技術を使ったケーブルTV向けのQAM/IPハイブリッド・ゲートウェアで協力をする。Arrisは6チューナのQAM/IPゲートウェイのMedia GatewayとそのクライアントのMedia Playerを発表しているが、これをベースにNDSのミドルウェアとコンテンツセキュリティー技術を加えた製品を開発する。
  • NagraはRFの放送信号をIPにトランスコードし、タブレット等からの視聴を可能にするゲートウェイを発表した。製品はNagraのOpenTVミドルウェアを採用し、既存のSTBに接続する事が出来る。